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山崎夏生のルール教室

知らぬ間に選手が代わっている!? 特殊事情も全審判員に責任が/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

9月22日の神宮での試合でも「守備が代わっている」とヤクルト・高津監督から指摘を受けた立浪監督


9月17日の中日対ヤクルト戦(バンテリン)で、立浪監督(中日)が球審への選手交代の通告を怠り、斉藤惇コミッショナーから厳重注意処分が科せられました。12回裏二死一、三塁での状況下、一塁走者の阿部寿樹石垣雅海に交代していたのに通告せず、次打者の四球後に審判団が気付いたようです。この場合、アピールがあれば正規の走者でないからアウトになるのでは?

 監督は選手交代の際、5.10(b)「監督は、プレーヤーの交代があった場合には、ただちにその旨を球審に通告し、あわせて打撃順のどこに入るかを明示しなければならない」と記されています。ならば通告のなかった選手交代は無効か、というとそうではないのです。

 同じく5.10(j)交代発表のなかったプレーヤーの取り扱い(4)「走者ならば、退いた走者が占有していた塁に立ったとき」に正規の走者となります。ただ、球審への通告がなければ場内放送はありませんし、スコアボードの名前が変わることもありません。これでは試合に混乱をきたしますので、こういった処分が科せられるのです。

 実はその選手交代に気付かなかった審判団にも非はあります。通常であれば球審はメモを片手にしっかりと交代を聞き取り、塁審も場内放送を聞きながら各選手の配置が間違いないかを確認しています。ただ、今回は特殊な事情もあったようです。

 この交代の直前に三塁でのプレーに対してリクエストがあり、そのリプレイ検証のため3人の審判は控室に戻り、フィールドに残された1人も通常のポジションにはいませんでした。立浪監督もリクエストの結果が気になっていたのでしょう。こういった初歩的ミスは球場全体がエアポケットに入ったような状況下で起こるのです。ちなみに同監督はその5日後にも同様の通告ミスを犯してしまい、今度は制裁金も科せられました。

 ボールカウントや選手交代でのミスはルールに関わることですので当該審判のみの非ではありません。ジャッジの責任は個人のものですが、試合運営とルールの責任は全審判員にあるからです。通常は公表されませんが、口頭での厳重注意、時には書面での処分は全員に科せられます。そうならぬよう、球審のみならず塁審も胸のポケットに小さな紙片を持ち、交代選手や登録選手の確認などをしているのです。もちろん控え審判も常にメンバー表とルールブックを傍らに置き、万一の事態に備えています。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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