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山崎夏生のルール教室

NPBのニューノーマルへ 1年越しの「大谷ルール」/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

大谷の存在が海の向こうから日本のプロ野球に変化をもたらした[写真=Getty Images]


【問】今年のルール改正では先発投手が降板後に指名打者(DH)として出場できるという、いわゆる「大谷ルール」がわが国でも導入されると聞きました。これはプロ野球のみならず、アマチュア野球でも同様なのでしょうか? また、野球のルールは世界共通のはずなのに、どうしてMLBよりも1年遅れで適用されるのですか?

【答】「野球のルール」とは憲法のようなものです。MLBでは「Official Baseball Rules」(OBR)と呼ばれ、それを各国の野球事情に合わせ翻訳し改訂されたものがその国のルールとなります。ですから日本の「公認野球規則」とOBRは同一のものではありません。そして憲法のもとに法律があるように、そのルールよりも試合で優先されるのが内規(アグリーメント)であり、試合要綱です。よって各連盟でイニング数やコールド・延長規定、投球数制限などが違っていてもまったく問題はありません。主催団体にその裁量権はあります。

 野球は国際的なスポーツですから、基本的にはOBRの改正に各国も合わせます。ただMLBでは理事会や選手会の承認が必要なため、公示されるのは年度明けとなります。そこから各国で審議したのでは時期的に遅く、また運用経過を見極めるためにも1年遅れでの導入となるのです。この審議にはプロのみならず各アマチュア団体の規則委員や現役審判、公式記録員なども出席し、年度末に行われます。

 で、この「大谷ルール」は「5.11・指名打者」の規定の改正です。今まではDHを解除しなければ投手は打席に立てませんでした。今年度からは降板後も、DHの打順に入り出場することが可能となりました。これを後押ししたのはもちろん、1打席でも多く大谷選手の打撃を見たいというファンの強い願いでした。

 ちなみに従来のルールではその逆、つまりDHが投手になることは認められています。デストラーデ選手(元西武)は解除後に登板したことがありますし(1995年5月9日、1安打2四球、オリックス戦・富山市民)、日本ハム時代の大谷選手も2016年のCSファイナルステージでは、165キロの速球で9回を三者凡退に抑え、DH出場と同時にセーブも挙げました(10月16日、ソフトバンク戦・札幌ドーム)。

 さて、わが国では誰がこのルールの恩恵を受けるのか。現時点で可能性があるのは日本ハムの今季ドラフト1位指名の矢澤宏太選手(日体大)くらいでしょうか? 社会人野球や大学野球でも広くDH制度が採用されていますから、ひょっとしたらとんでもない逸材が現れるかもしれません。それもまた楽しみですね。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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