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山崎夏生のルール教室

2024年MLB改正ルール 局所的な改正が世界に波紋を!?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

2014年の日本シリーズは第5戦の9回、一死満塁から一ゴロで本塁フォースアウト後、捕手の細川からの一塁送球が西岡の背中に当たり、守備妨害で日本一が決まった


【問】昨年末、MLBから2024年からのルール変更が発表されました。主な変更点は無走者のときのピッチクロックが20秒から18秒に短縮されること、監督や投手コーチのマウンドへの訪問回数が1試合5回から4回に減らされること、一塁への走塁レーンが拡大されること等々でした。一、二番目はさらなる試合時間短縮の狙いだと思うのですが、三番目はかなり守備妨害の判断基準が変わるのではないでしょうか?

【答】そうですね。従来の3フットレーンのルール(5.09.a.11)では、一塁後半の走塁に関しては、この中を走らずに一塁への送球をとらえようとしている野手の動作を妨げたと審判員が認めた場合、打者走者は故意か否かを問わずにアウトとなります。2014年の日本シリーズ最終戦(ソフトバンク阪神)でこの走塁をしたために西岡剛選手(阪神)がアウトになったシーンを覚えている方も多いでしょう。

 で、今季の改正ではこの走塁が守備妨害とはならないのです。通常、各球場には内野の芝生と両サイドのファウルラインの間に18.24.(約45.60センチ)の土の部分があります。打者走者はこのエリア内を走っていれば守備妨害にはしない、つまり3フットレーンにプラスしてこの部分の走塁も認められるということです。

 ただ、個人的にはいささか疑問があります。そもそもなぜこのルールができたのかという立法趣旨に則って考えれば、ありえない改悪とすら思えるのです。バントなどの打球処理をした際には必ずや本塁近辺からの一塁への送球となります。ということはほかの塁に比べ、内野内を走れば格段にその送球が背中に当たる確率が高くなりますし、受ける野手の視界を遮ることになります。だからこそこのルールができたのです。この改正によりMLBでは打者走者は未必の故意となる、フィールド内の走塁が頻発するでしょう。それを制御するルールが解除されたのですから。

 もちろんわが国でこの改正が論議されるのは今年末のプロアマ合同の規則委員会の席上です。昨年のピッチクロックや塁の拡大化、極端なシフトの禁止などもそうですが、近年はあまりにもMLBの独善的な改正が目立つような気がします。アップデートは必要ですが、それが本当に理に適っているのかどうか、アメリカだけではない世界的視野に立った論議がまずはあるべきです。そうしないと国別の「内規」ばかりが増え、国際試合での対応が選手・審判ともども大きな負担になることを危惧します。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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