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山崎夏生のルール教室

元NPB選手の審判がいなくなる!? 一生をかける価値はありますよ/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

筆者[左]が引退試合前の柳田審判と撮影した写真


【問】昨年をもって選手時代(元ヤクルト、近鉄など)から大好きだった柳田昌夫審判が現役を引退しました。近年、元プロ野球選手の審判が激減し、今年の新規採用の4人の中にもいませんでした。これはNPBの方針でしょうか? あるいは待遇や実技能力といった問題でしょうか?

【答】プロ野球創成期の審判は全員が元プロで、それも主将や監督まで務めていたというそうそうたる顔ぶれでした。それゆえに権威も絶大で、「俺がルールブックだ!」「無礼者!」とどやしつけたとしても、それがまかり通る時代でした。私がパ・リーグに入局した42年前も3分の2以上は元プロで、ほぼ全球団のOBがいました。彼らの運動能力や野球センスは判定技術においても飛び抜けており、超一流と目された審判も多かったですね。

 が、1990年代ごろからその数は年々減少し、今季は現役審判56人のうち元NPB選手は有隅・吉本・眞鍋・小林・名幸・嶋田・秋村・津川(敬称略)のわずか8人のみです。その最年少が51歳ですから、おそらく10年以内には誰もいなくなるでしょう。なぜか? 大きな要因は2つあります。

 ひとつは金銭面での待遇です。たとえ育成契約でもNPB審判の年俸は同世代に比べて決して少なくはありません。一軍レギュラーメンバーに昇格すれば1000万円以上の年俸ももらえます。ただ、そこに至るまでの道のりが果てしなく遠いのです。選手は実力さえあれば高卒1年目でもレギュラーになれますが、審判が一軍の舞台で球審を務めるまでには最低でも7、8年の修業が必要です。見る力自体は若い人ほどあれど、審判は何よりも経験値の高さが求められ、最低でも二軍で1000試合程度をこなさなければなりません。もちろんその間の昇給などは微々たるものですから、華やかな選手時代を過ごしたならば相当の覚悟が必要となります。

 もうひとつは必ずやNPBアンパイアスクール(2013年創設)を受講し、そこで優秀な成績を修めねばならないことです。かつては所属球団の推薦があれば年俸も配慮され、面接のみで採用してもらえました。が、このスクールはすべての若者(女性も含む)に門戸開放された平等な挑戦の場なのです。毎年100人以上の応募があり採用されるのは数人という狭き門ゆえ、挑戦をためらうのかもしれません。毎年、球団に声掛けをしているのですが、未だに元プロの受講者が現れないのが残念です。男子の一生をかけるに値する仕事、と思うのですがねえ……。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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