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山崎夏生のルール教室

野球では適用が難しい 故意落球のアドバンテージ/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

2023年7月11日の巨人広島戦[東京ドーム]では9回一死一塁からダブルプレーでゲームセットかと思われたが遊撃の門脇誠のプレーが故意落球と認められ試合は続行した


【問】故意落球の判定についてお尋ねします。わざと落として併殺を狙いに行っても、悪送球や受ける側の落球などでオールセーフになる可能性も多々あると思います。ならば一旦はアウトを宣告せずに流しておいて、併殺になったならば故意落球を適用するほうが良いと思うのですが、いかがでしょうか?

【答】それも一理あるとは思いますが、残念ながら現行ルールでは故意落球は宣告されれば即時に打者アウトとなり、ボールデッドで塁上の走者は進塁できません。無死または一死で走者が一塁にいるときに「内野手がフェアの飛球またはライナーを故意に落とした場合」(5.09.a.12)に適用され、その「注1」では「片手または両手で現実にボールに触れて、故意に落とした場合」と書かれています。よって胸や足で当てて落としたならばルール的には抵触しませんが、危険ですから絶対にいたしませんように。

 確かにその後に守備側のミスで攻撃側が有利になることもあります。実際にサッカーやラグビーでは反則が生じた際に、反則を受けたチームが有利となる場合にはプレーを続行させ、その後のプレーが途切れた時点で反則を適用する「アドバンテージ」という考え方があります。とはいえ、野球ではプレーの成り行きを見てから決めるのでは、あまりにも複雑になるケースが多過ぎるのです。ほかの走者の進塁や得点、挟殺プレーなど有利不利は目まぐるしく入れ代わりますし、本来は故意的な併殺を防ぐのが目的ですからまずはこの原則を尊重しようということです。1939年にこのルールができた当時は打者アウトのみで、走者の進塁はできるインプレー扱いでしたが、これでは先述したようにその後の混乱を招くということで76年に即時にボールデッド、走者の進塁はできない、と改正されました。

 これは通常の守備妨害でも同じで、例えば打者が無死一塁でバントをした際に、捕手は守備を妨げられたにもかかわらず二塁に送球し併殺が成立した、というケースでも打者がアウトになるのみで、走者は一塁に戻されます。

 唯一アドバンテージの考え方が適用されるのは、盗塁時の捕手への守備妨害です。打者が捕手の送球を妨げても、走者がアウトになればその妨害はなかったものとなり、セーフになれば打者はアウトで走者は元の塁へ戻します。それが三振だったならば自動的に走者もアウトです(6.03.a.3.4)。では、球審が妨害したならば……? もちろん球審アウトではなく、走者を戻すのみですよ。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社.東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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