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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「巨人・阿部慎之助のコンバート」

 

得難い経験を積んだベテランがなぜファーストなのか


 今シーズン、一塁手としてスタートした巨人阿部慎之助が、わずか7試合で捕手に逆戻り。その後、故障で約1カ月リタイアした。

 故障の件はともかく、私はなぜ阿部に一塁を守らせるのか、不思議でならなかった。これは私の持論であるが、捕手がしっかりしているチームは、最下位にならない。なぜならこのコラムでも何度か書いたように、捕手は常日ごろから監督の分身として――特に守っているときは、監督以上の仕事をしているからだ。

「野球は筋書きのないドラマ」と言うが、野球をドラマにたとえれば、その脚本を書いているのはキャッチャーだ。言い換えれば、それだけ責任感、使命感の大きな仕事である。人間は責任感、使命感によって、成長する。だから嫌でもキャッチャーは成長するし、野球博士に進化する。私が「キャッチャーさえ育てれば、チーム作りは半分以上できたようなもの」というのは、そのためだ。

 もう一つ、キャッチャーに関してよく言われる言葉に、「優勝チームに名捕手あり」がある。加えて日本シリーズを経験すると、キャッチャーは大きく成長する。楽天・嶋(基宏)もシリーズを経験して、外角一辺倒の弱気の虫から、ずいぶん良いキャッチャーになった。もちろん、私自身もそうだった。

 阿部は、日本シリーズを5回も経験したベテランである。せっかくそれだけ得難い経験を積んでいる選手に、なぜ今さらファーストを守らせるのか。「打撃重視」とかなんとか言っていたが、ファーストに転向しても、結局打てなかったではないか。ましてや、ほとんど経験のないファーストの守備など、うまくこなせるはずもない。本人もよく「はい」と言ってファーストミットを手にしたものだ。私ならきっぱり、「イヤです」と言う。「俺がキャッチャーではダメですか?」と。

 阿部をファーストに回したのは、2年目の小林誠司を育てたい思惑もあったと聞く。どういうつもりで若手を一軍で育てようとしているのか分からないが、私は今の巨人には必要ないと思う。正捕手は阿部で良い。巨人には・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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