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惜別球人2013

インタビュー・藤本敦士 自分にとっての野球とは“忍耐”でした

 



耐えに耐え抜いた野球人生を送った。椎間板ヘルニアで大学を途中退学。専門学校、社会人を経てのプロ入りだった。その後もレギュラー獲得の足掛かりをつかんではぶつかった、いくつものカベ。それらを必死で乗り越えようと、もがいてもがいた13年間だった。阪神ヤクルトで名バイプレーヤーとして活躍した藤本敦士が今、振り返る。

取材・構成=岡部充代 写真=毛受亮介、井田新輔、BBM

※記事の最後に藤本敦士氏の直筆メッセージ入りサイン色紙応募についてお知らせがございます

大学を中退も計画を持って目指したプロの世界

──最後の数年はケガに泣かされましたが、今は治療やリハビリから解放されてホッとしているのか、ユニフォームを着られなくなってさびしいのか、どちらですか。

藤本 さびしい部分はまったくないです。めっちゃ割り切って、スパッとやめられたので。スッキリしています。

――スパッと決断した時期と理由を教えてください。

藤本 決断したのは今年の7月ぐらいですね。リハビリしていて、このままじゃアカンなと。2年前にもどうしようかと悩んだ時期があったんですけど、そこから2年間できたからこそ、今回スパッと決められたんだと思います。

──決断した一番の理由は、3年前に手術もした腰ですか。

藤本 体全部ですね。あとは自分の技術と、精神面も全部使い切ったという感じでした。

――2年前に悩んだとき、踏みとどまった理由は?

藤本 最終戦で一軍に上がって、マエケン(広島前田健太)からヒットを打って(ノーヒットノーランを阻止する一打)、そのあとクライマックスでは代打でタイムリーを打って……というのが続いたんです。あのころは多分、気持ちが弱っていたんでしょうね。体的にはまだやれたけど、精神的に弱っていたから悩んだんだと思います。あのときやめていたら多分、後悔していました。今は、あれから2年続けられたという、ちょっとした満足感があるんです。

――藤本さんは亜大1年のとき、腰を痛めて一度、野球から離れました。プロでやれたことに対する思いが、ほかの人とは違うと思うのですが。

藤本 いや、そんなに。大学をやめたからといって、別に苦労したとは感じてないですし。ただ好きな野球をやってきただけであって、もっと苦労している選手はたくさんいると思います。「一度挫折したところから、よくはい上がってきたな」とか言われますけど、僕としては、やめてからも計画を持ってやってきたつもりなので、誰かと何かが違うとか、考えたことないですね。

――計画を持ってというのは、プロを見据えていたということ?

藤本 もちろん、もちろん。最終目標はプロ野球選手になることでした。大学をやめてブランクがあって、いきなりプロを目指すのは難しいので、まず専門学校に行って、全力で体を動かせるようになるまで復活しようと。次は社会人に拾ってもらえるように。社会人に行ったらプロを目指そうと、段階を踏んでいったつもりです。

──その計画どおりにプロ入りしましたが、入ってみて感じたことは?

藤本 何もかもがプロレベルではなかったので、野球に対してびびっていましたね。体の大きさも違う、スピードも違う、これでやっていけるのかなと思いました。

▲2000年秋のドラフト会議でドラフト7位指名を受け、阪神に入団(後列右から2人目)



――同期の赤星憲広さんとは似たような背格好でした。2人でそういう話をしたことは?

藤本 お互い、体がちっちゃいので、見返してやろうみたいなことは言っていました。赤星さんが活躍すれば刺激になったし、いいお手本が目の前にいましたよね。そういう部分で、僕は恵まれていたと思います。

――2年目はフレッシュオールスターでMVPに選ばれ、3年目はレギュラーとして打率3割。プロでも階段を上がっていきましたよね。

▲06年オールスター第2戦(宮崎)では、MVP を獲得



藤本 そのときは無我夢中でした。なんとか試合に出たい、とにかくうまくなりたい、という思いだけで。1年目は一軍と二軍を行ったり来たりで、悔し過ぎて一軍の試合も見られませんでしたからね。

金本に学んだ試合に出ることの意味

▲03年のリーグ優勝には主力として貢献した



──阪神時代は金本知憲さんによくイジられていましたが、藤本さんにとってはどういう存在でしたか。

藤本 僕らは初めから阪神タイガースという大きなチームにいて、周りが見えていませんでした。「阪神タイガースの藤本敦士」っていうのが確立されていて、結局は天狗になっていたんでしょうね。その鼻をきれいさっぱり刻んでいってくれました。

──具体的には?

藤本 関西にいると、「阪神の○○」と言われるじゃないですか。でもカネさんが来たら、「お前ら、よう似たもんばっかりで、名前も顔も分からんわ」って。人気球団だからチヤホヤされているだけで、実力があって言われてるわけじゃないって、そう言いたかったんだと思います…

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惜しまれながらユニフォームを脱いだ選手へのインタビュー。入団から引退までの軌跡をたどる。

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