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第68回 待望の和製大砲――にわかに様変わりする各球団の“四番事情”

 

 故障により開幕1軍は絶望的となってしまったが、巨人大田泰示が、春季キャンプから注目されている。練習試合やオープン戦などの実戦で「四番」に抜擢され、センター中心にはじき返すなどしぶとい打撃を披露。3月3日の日本ハム戦(札幌ドーム)でスタメン落ちしたが、翌日の同カードで一番で復帰すると2安打をマークするなど懸命にアピールしている。

 レベルアップの秘密は、不安定だったバットの軌道が定まってきたからだ。これまでの大振りスイングが影を潜め、鋭くインパクトするスタイルに変貌。強い打球が飛ぶようになり、課題だった確実性も向上した。「ひょっとしたら、今年は面白いよ」。キャンプを訪れた長嶋茂雄終身名誉監督のつぶやきも、あながちリップサービスではなさそう。もし大田がこのまま進化を続けるのなら、近い将来、四番の座を奪うのも夢ではない。

実戦で四番に抜擢された巨人の大田。原監督からの期待は大きい[写真=大泉謙也]



 大田以外でも、今年のプロ野球では、若き大砲が一流選手へ向けてブレークの時を迎えている。DeNAでは、昨シーズン打率.300、22本塁打、77打点とプロ5年目で自己最高の成績を残した筒香嘉智が四番に指名された。ソフトバンクでは、球界トップ級の飛距離を誇る柳田悠岐の四番を工藤公康監督がにおわせている。

 実績のある打者も、四番として顔をそろえそうだ。日本ハムは日本代表「侍ジャパン」の主砲を務める中田翔が確定。2010年に王貞治以来48年ぶりに22歳の本塁打王となったオリックスT-岡田、キャンプから好調のロッテ今江敏晃も可能性がある。パワフルな外国人の指定席だった各チームの打順事情が、ここにきてにわかに様変わりしてきた。

 四番打者は野球の“華”だ。メジャー・リーグでは「三番最強説」もあるが、日本の野手のシンボルは、何と言っても四番だ。元楽天監督の野村克也氏が「野球は四番とエース」と語っているように、不動の四番がいるチームは強い。特にチーム生え抜きの日本人が務めていれば、長いペナントレースでチームの精神的支柱としての存在に変わる。

 和製大砲の出現は、日本球界にとっても大きな意義がある。五輪やワールド・ベースボール・クラシック(WBC)など代表チームによる試合では、“四番不在”の時代が続いていた。「つなぐ四番」はそれなりに貴重な存在ではあるが、絶対的なポイントゲッターにはなり得ない。侍ジャパンの小久保裕紀監督は、「ホームランを打てる四番打者は、試合のムードを一気に変えることができる。そのためにも、実力のある和製大砲が育ってほしい」と強調する。

 メジャー・リーグに挑戦した選手の活躍が証明したように、日本の主力投手は世界トップ級のレベルと言っていい。だが、野手は概ね小粒さが否めなかった。スモール・ボールの細かな駆け引きも一つの楽しみではあるが、野球の最大の醍醐味は、力と力のぶつかり合いだ。大谷翔平藤浪晋太郎ら本格派の若手が球界の主力に躍り出てきた今こそ、打者も力で立ち向かえるだけの真の四番打者が台頭してほしい。

「記念のホームランは大谷から!」

「藤浪を打って優勝を決める!」

 かつてファンの心を虜にしたライバルたちの重量級の名勝負が生まれれば、野球人気は揺るがないものとなる。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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