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野球浪漫2023

楽天・田中和基 秘めたる思いを力に変えて 「バッティングでも、打席に立った試合では『できる』って姿は見せられているので」

 

新人王を獲得したのはプロ2年目、2018年のシーズンだった。しかし、あれから4年が過ぎたものの、それ以上の輝きを放つことはできていない。ここ数年は代走や守備固めの起用が多いが、パンチ力のある打撃も魅力だ。プロの水に慣れた分、置かれた立場が見えて悩む時間が続いたが、巻き返すしか道はない。やるべきことは自分が一番よく分かっている。
文=田口元義(フリーライター) 写真=井沢雄一郎、松田杏子、BBM


プロでの羅針盤


 28打数10安打。

 今年、楽天の田中和基はこの成績が示すように、春季キャンプ中の実戦から快打を重ねていた。打率.357という高打率を残していた田中はしかし、3月5日の日本ハム戦とのオープン戦(札幌ドーム)を最後にファームで再調整することとなった。

 本人は涼しげな顔で言う。

「イメージはついていたので。チームとしては『守備と走塁はしっかり任せたよ』ってことだろうな、と」

 近年は確かに、代走や守備要員として試合終盤にゲームを引き締める役割が多い。今年で29歳、プロ7年目のキャリアを考慮するなら、チームとしてこの時期の実戦は若手にチャンスを与え、戦力の底上げを図りたいといった思惑も理解できる。そういったチーム事情を考慮し、田中には「ファームで打席を積ませ、開幕に備えてもらいたい」といった首脳陣の意向もあった。

 ここであらためて分かるのは、田中は今もバッティングでも自己証明を果たせる選手、ということだ。

 新人王となった2018年は持ち味の足と守備以外でも18本塁打を放ち、新型コロナウイルス禍が猛威を振るい、選手たちが調整に苦しむ中、20年は8本塁打を残した長打もあるのだ。

 田中が冷静に応じる。

「バッティングでも、打席に立った試合では『できる』って姿は見せられているので。ホームランを18本打った年と8本打った年と今を比べて『バッティングが悪くなってるか?』と言われたら、自分ではそう思わないんです。大学のころからすごく成長しているわけではないかもしれないけど、劣化もしていないと自分では感じているので」

 落ち着いたトーンながら、訴えかけているようだ。自分はまだ打てる、主力としてやれる――と。

 田中は打つことで野球人生を切り開いてきたプレーヤーだ。

 遊び感覚から始めたスイッチヒッターは、高校に入ると持ち味となっていた。福岡の進学校、西南学院高でキャッチャーだった田中は、右打席で10本、左打席で8本のホームランを記録するほど、両打席ともにパンチ力を印象付けたほどである。

 指定校推薦で立大に進むきっかけとなったのは、チームメートから早大に誘われたからだ。当時、大学野球の最高峰と呼ばれる東京六大学リーグを知らなかった地方都市の高校生が、最終的に立大を選んだのは「環境が自分に合っている」と直感したからだった。

 興南高で春夏連覇を経験した大城滉二(オリックス)、日大三高のキャッチャーとして全国制覇となった鈴木貴弘、藤浪晋太郎(アスレチックス)との両輪で大阪桐蔭高の春夏連覇に貢献した澤田圭佑(ロッテ)。名門校で名を馳せた逸材たちが、この時期から続々と立大の門をたたくようになったことで・・・

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