訪れた転機
グラウンドに駆け出す“6番”は、誰にも見せない「影」の部分があるからこそ、より輝きを増している。
「ドキドキですよ、毎日。球場に着いて、自分を落ち着かせて『今日も試合だ』と言い聞かせて。『さぁ、やるぞ!』の気持ちをつくり上げます」 昨季、パ・リーグの三塁手部門で2年連続となるゴールデン・グラブ賞を獲得してもなお、日々、鍛錬を積む。
「野球って、予想外のことが起きるスポーツですから。(守備で)打球のバウンドが変わったり(一塁への)タイミングを図ったり……。考え過ぎるのも良くないんだなと気がつけたのは、実は最近です」と、あどけない笑顔で“当時”を思い返す。
横浜隼人高から2014年秋のドラフトで2位指名されてオリックスに入団した。高校時代は1年秋から外野手としてベンチ入り。2年春には桐光学園高の
松井裕樹(現
楽天)からマルチ安打を放ち、注目を浴びた。春夏を通じて甲子園出場の経験はなかったが、高い身体能力や、ひたむきに野球と向き合う姿勢がスカウトの目に留まり、上位指名を受けた。
期待を胸にプロの世界に進んだが、現実は厳しかった。小学5年時に野球を始め、持ち前のセンスから投手と遊撃手を兼任。オリックスに入団してからも数年間は遊撃を守り、将来のレギュラー候補として若きころを過ごした。
「上手になるために一生懸命プレーしていました。もちろん、手を抜いたことはありません。ただ……どう練習しても上達している自分が見えてこなかった」 左右前後に振られるノックを受ける毎日。足腰はフラフラになりながらも、練習を“完走”し
「クタクタでしたね。真剣に練習メニューをこなしていましたから。絶対、うまくなるんだ、レギュラーで試合に出るんだ、という気持ちでしたから」。16年9月18日、敵地・ヤフオクドームで行われた
ソフトバンク戦に二番・遊撃としてスタメン出場。プロ初出場に「ここから始まる」と強く意気込んだ。
その直後……。一軍のレベルの高さを痛感することになる。プロ初打席から3打席連続で三振。守備でも悪送球するなど悪目立ちし、イメージと真逆の結果に頭を抱えた。その年の出場は3試合。
「また二軍かあ……。頑張らなきゃな。そう思うしかなかったです。何もほかに思いつきませんでした」。悩みを抱える日々だった。
一軍昇格での収穫は“名手の残像”だった。遊撃で試合前に一緒にノックを受け
「安達(安達了一)さんより、うまくなれる自信が、まったく芽生えてこなかった。ショートを守っているときは不安しかなかった。常にマイナス思考でしたね」。自身のグラブさばきと異なる姿に絶望を感じた。
「楽しかったはずの野球が、一瞬だけ楽しくなかった。振り返ると、そんな時期もありました」 どれだけユニフォームを泥々にしても快感は生まれず・・・
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