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野球浪漫2023

広島・田中広輔 活力は原点回帰「好きな野球、もう一度、そういう気持ちを大事にしようと考えるようになりました」

 

リーグ3連覇からの4年連続Bクラス。新井貴浩新監督の下で、チームは変革期を迎えた。勢いをもたらす“確かな力”が求められる中、復活を遂げ、第一線で躍動する背番号2の姿が。10年目のシーズン、再び野球の楽しさに魅了されている。
文=坂上俊次(中国放送アナウンサー) 写真=佐藤真一、牛島寿人、BBM


痛快な復活劇の裏で


 クールな仕事人が、こぶしを突き上げる。鮮やかな流し打ちがトレードマークだった男が、フルスイングでボールをライトスタンドにたたき込む。

 10年目、34歳。2014年の入団から5シーズンで703安打を量産した。その間に、盗塁王(17年)やゴールデン・グラブ賞(18年)などにも輝いている。

 一番・ショート、田中広輔は、強いカープの象徴だった。

 ただ、ベテランの域に入り、体にも環境にも、変化は生じてくる。ショートには小園海斗矢野雅哉ら、若い力も台頭してきた。21年は81試合で28安打、22年は41試合で8安打。数字をたどれば、キャリアは曲がり角の様相を呈していた。

 迎えた23年シーズン。新監督に就任した新井貴浩は、穏やかな笑みを浮かべなら、言葉に力を込めた。

「彼が元気で楽しそうに頑張っているのを見ると、こっちもうれしくなります。もちろん、戦力としても非常に大きいです。自分が何をすべきか、何を求められているかが分かっています。随所に、経験というものを感じます」

 それにしても痛快な復活劇だ。オープン戦で打率が上がってこない時期も、新井監督に迷いはなかった。

「あのときも、打席での内容がいいと言いましたよね。しっかり入っていくことができ、反応もいい。見送り方も悪くない。そういうところを見て、心配することはありませんでした」

 スタメンでも、途中出場でも、田中は躍動し続けた。7月4日の阪神戦(マツダ広島)では、西勇輝のスライダーを引っ張り、ライトスタンドに突き刺した。しかも、前日に迎えた自身34歳の誕生日を祝うメモリアルアーチとなった。

 田中がホームランを打った試合は、20年9月25日のDeNA戦(マツダ広島)から10連勝。いかに、彼の活躍がチームに勢いももたらすかを雄弁に物語る。

「楽しくプレーできないのが、自分のいいところであり、悪いところでもあったと思います。好きな野球、もう一度、そういう気持ちを大事にしようと考えるようになりました」

 エリート街道。そんな言葉で済ませてはいけない。父と同じ東海大相模高で甲子園に出場し、東海大では首位打者にも輝いている。社会人の名門、JR東日本では1年目からレギュラーとなり、都市対抗の重圧とも向き合ってきた。プロのキャリアのスタートとなった14年は、カープが黄金期に向かう転換点だった。だからこそ、田中は、ずっと「チームの勝利」を色濃く求められる立場に置かれてきた。

 特にリーグ3連覇以降は・・・

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