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沢村栄治「栄光の伝説」/生誕100年記念企画その11

【沢村栄治 栄光の伝説(11)】淡泊な勝負師、巨人・藤本定義の沢村評

 

足を高々と上げる沢村。いつもではなく、ここぞというときだけ。たぶん、ファンサービスの意味合いもあったようだ


 茂林寺の合宿で気持ちを入れ替え、練習に励み、いよいよ颯爽と新たなる伝説を作り上げていく巨人沢村栄治だが、前回も引用した藤本定義監督の著書『覇者の謀略』(小社刊)の中の投手・沢村評が興味深い。変に編集するより、そのまま紹介したほうがいいだろう。少し長くなる。

『沢村は珍しく買った靴やネクタイのようなものでも、ちょっとした弾みで、あっさり人にやってしまうというところがあった。そしてほがらかで淡泊だ。だから誰からも好かれた。

 ピッチングが大胆で、かつ細心であった。バッターの欠点を書いたメモを見せて注意をうながしても、ろくに見もしないで、「ど真ん中へほうっても、よう打ちませんワ」とうそぶいていた。それでいてちゃんとメモに目を止めている、というふうであった。

 タイガースの村山も、大胆に真っ向からバッターに挑んでゆく、そういうところは沢村とよく似ている。しかし打たれたとき村山には弱さが出る。沢村は大胆に勝負し、打たれても平気だった』

 悲劇の大投手として語り継がれ、ストイックで聖人の印象も強い沢村だが、藤本の筆は、その人間臭い部分を浮かび上がらせる。ひょうひょうとし、茶目っ気があり、プライドも高い。さすが投手らしい性格だ。藤本、沢村とも故人ではあるが、これもまた、文章の力だろう。

 なお、村山は阪神の大エース、村山実。藤本はその後、阪神の監督も務め、エース・村山で62、64年と2度の優勝を果たしている。

 阪神時代の藤本の教え子には、あの江夏豊もいる。藤本は江夏を孫のようにかわいがり、よく部屋に呼んで、お茶の相手をさせた。そのとき沢村が話題になることも多かったという。藤本はのち「沢村との付き合いで投手の扱いには慣れている」と話したこともあるが、実は、気分屋のところもあったのだろうか。(続く)

写真=BBM
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