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ドラフト会議物語

【ドラフト会議物語16】ドラフト史最大の汚点「江川事件」【78年】

 

今年は10月26日に行われるドラフト会議。毎年、金の卵たちが、どの球団へ進むか大きな注目を集める“一大イベント”で、さまざまなドラマも生まれる。今年で53年目を迎えるドラフト会議の歴史を週刊ベースボールONLINEでは振り返っていく。

のちの三冠王3回の強打者もプロへ


当初はドラフト制度の犠牲になった悲劇の青年・江川。それがいつしかふてぶてしき悪役となっていった


1978年11月22日
第14回ドラフト会議(ホテル・グランドパレス)

[1位選手(×は入団せず)]
南海   高柳秀樹 (国士舘大)
阪神   江川卓  (作新学院職員)
西武   森繁和  (住友金属)
中日   高橋三千丈(明大)
ロッテ  福間納  (松下電器)
大洋   高本昇一 (大阪・勝山高)
日本ハム 高代延博 (東芝)
広島   木田勇  (日本鋼管)×
近鉄   登記欣也 (神戸製鋼)
巨人   会議欠席
阪急   関口朋幸 (吉田商高)
ヤクルト 原田末記 (北海道拓殖銀行)

 11年続いた「指名順抽選方式」に代わり、ドラフトは新しい「入札方式」で再出発。各球団が1回ごとに希望選手を提出し、重複した場合は抽選、単独の場合は選択確定、抽選に外れた球団はウエーバー順で指名という方式だ。さらに、この年から指名人数が1球団4人、総勢48人までとなった。この人数減は、ドラフトの拘束力を弱めるために、おそらく巨人を中心とした球団の主張が通ったのだと思うが、意外な影響を与えることになった。

 最大の注目は前年、相思相愛の巨人ではなく、クラウン(このときは西武)に指名され、“浪人”していた江川卓だ。豊富な資金力を持つ西武がライオンズの球団経営権を買収したことで、「もしかしたら江川の西武入りもあるのでは」とウワサされたが、実際には、まさに驚天動地の事件で、球界に激震が起こった。

 78年のドラフト前にアメリカから帰国した江川は、ドラフト前日の11月21日、いわゆる「空白の1日」の論理を展開し、巨人との契約を発表した。当時の野球協約にはドラフト前々日に前年の交渉権が消失した選手のドラフト前日の立場、身分を規定した項目はない。しかし、だからといってその日がどのチームとも交渉が可能になるというのは、小賢しい屁理屈でしかない。鈴木竜二セ・リーグ会長は、当然、巨人から提出された支配下選手登録申請を却下した。巨人はこれに怒り、ドラフト会議をボイコット。さらに申請却下は無効とコミッショナーに提訴する。

 22日のドラフト会議では、江川を南海、阪神、ロッテ、近鉄が1位指名し、抽選の結果、阪神が交渉権を手にした。以後の流れは、あまりにもさまざまなことが起こりすぎて、ここでは説明しきれない。江川個人、巨人だけでなく、政治家まで動くゴタゴタの中で、いつしか好きな巨人に入れなかった“悲劇の青年”江川が、屁理屈を押し通す、“不敵な悪役”になってしまった。

 最終的には、12月22日、金子鋭コミッショナーの“強い要望”に沿い、江川は阪神と契約(背番号は3)、その後すぐ巨人のエース格だった小林繁とのトレードが発表された。

 先ほどの人数減の影響というのは、やや強引な推測かもしれないが、総枠48人で、巨人抜きでは44人なら、ドラフト外でも、ある程度の補強は可能という思いが巨人にあったのではないか、ということだ。結果的には、その1人、鹿取義隆(明大)はリリーフとして長くチームを支える屋台骨となった。さらに新球団・西武は、その豊富な資金を使い、プロ志望ではないと思われ、どこも獲得に動かなかった実力者・松沼博久(東京ガス)、松沼雅之(東洋大)兄弟と、のちの黄金時代にも貢献する2人の投手を獲得。特に雅之に関しては、水面下で巨人との大争奪戦となったという。仮に巨人入りしていれば、確かにドラフトボイコットの影響は、ほぼなかったと言ってもよかったのかもしれない。

 江川以外の1位では、西武の森繁和がのちにクローザーとして活躍。ロッテの福間納は阪神に移籍してから鉄腕リリーバーとして開花した。2位では日本ハム移籍後、ノーヒッターにもなっている西武の柴田保光(あけぼの通商)、日本ハムで82年に20勝を挙げたサイドハンドの工藤幹夫(本荘高)、近鉄が内野守備の名手・森脇浩司(社高)、阪急が長距離砲・石嶺和彦(豊見城高)らの名前がある。ほか阪急4位には、外野守備の名手・山森雅文(熊本工高)もいた。

 そして最大の大物がロッテの3位・落合博満(東芝府中)だろう。三冠王3回と球史に残るスーパースター。これだけの選手が、ほぼ争奪戦なくプロ入りしたことについては、のちのち悔しがったスカウトも多かったと思う。

<次回に続く>

写真=BBM
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