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追悼・星野仙一

追悼企画38/星野仙一、野球に恋した男「宿敵巨人を倒し日本一へ」

 

 星野仙一さんは、いつも言っていた。「俺はベースボールの取材は断らん」。実際、ほとんど断られたことはない。恥ずかしい話だが、テレビ局などに比べれば、ウチのギャラなど雀の涙……。おそらく、球界にとっての専門誌の重要さを評価してくれていたのだと思う。そういった俯瞰(ふかん)した見方ができる方だった。
 星野さんの追悼号制作の中で、たくさんの資料を見て、たくさんの方から話を聞いた。それがあまりに膨大なので、これから毎日になるか、数日に1回になるか分からないが、追悼号には入りきらなかった話を当時の『週べ』の記事の再録も交えながら紹介していきたい。(以下は敬称略)

選手たちとともに喜び、泣き、怒りながらつかんだ頂点


選手、監督として初めての日本一。感無量の表情だ


 CSファイナルでロッテを下し、球団初の日本一に挑んだ、2013年日本シリーズ。相手は、現役時代からの宿敵・巨人だった。

 勝負はまず、地元仙台のKスタ宮城で1勝1敗、東京ドームに移って2勝1敗で、楽天が王手をかけ、再び地元に戻った。しかし、満を持してマウンドに立った絶対的エース・田中将大がピリッとせず、160球で完投はするも1年2カ月ぶりの敗戦投手となってしまう。

「正直、嫌な感じがした」と、のちに振り返った星野監督だが、迎えた11月3日の第7戦では、隣接する仙台市陸上競技場で行われたパブリックビューイングも含め、集まった約5万人のファンの底力が「日本一」の夢を後押しした。

 楽天先発は第3戦の勝利投手、美馬学。重圧がかかる中、6回を無失点。その間、味方打線が挙げた3点を7回から則本昂大、そして9回、前日完投の田中がまさかの登板をするも、無失点に抑え、ついに悲願の日本一となった。

 試合中から降り続いた雨を切り裂くように、仙台の空に星野仙一監督が9度舞う。

 球団創設9年目で成し遂げた日本一。Kスタ宮城、仙台、東北、そして全国のイーグルスファンが歓喜に沸いた。

「東北の子どもたち、全国の子どもたちに勇気を与えた選手たちをほめてやってください!」

 目に涙を浮かべた指揮官の脳裏には、犬鷲軍団が歩んできた苦難の道のりが浮かんでいたはずだ。監督就任1年目に見舞われた東日本大震災――。「野球を続けていいのか」と苦悩したナインだが、慰問に訪れた避難所の人々から逆に勇気づけられた。

「就任して3年間、被災者の方々のためにも、日本一になって勇気づけるしかないと思ってやってきた。ほんの少しでも、スズメの涙でも皆さんの癒やしになってくれれば。
 多くのファンが球場へ来てくれて、その中で選手も本当に頑張ってくれた。ありがとう!」

 選手、スタッフ、ファンが一体となって頂点をつかんだ一年。杜の都に轟いた闘将の歓喜の雄叫びが、何よりもそれを証明していた。

 以下は星野監督の優勝会見だ。

――優勝の実感は?

 まだピンとこないね。「ホンマかいな」が続いている感じ。

――仙台で宙に舞いました。

 何回上げるんやろ、コイツらって感じだったけどね(笑)。早く下ろしてくれよと。でも気持ちよかったね。

――巨人を倒しての日本一です。

 ジャイアンツじゃなかったら、涙が出るような思いにはならなかったと思う。ジャイアンツには、現役、監督とプロでの喜び、悔しさを教えてもらった。うれしいね。

――リーグ優勝のときはチームを「まだ幕下」とおっしゃっていました。

 小結ぐらいにはなったかな。でも、小結は負け越したらすぐに幕下へ落ちるから。早く大関になってほしい。

――第6戦にエース・田中投手で敗れ、厳しい気持ちもあったのでは?

 まさかアイツが、(田中の顔を見て)コイツがと思ったからね。嫌な感じは正直した。昨日が終わって、7戦までもつれこんだことに満足していたんだけど、ミーティングを開いて、締めに「最後にオレを泣かせてくれよ」と言ったんだ。ミーティングを開いた翌日は必ず勝っていたから、ゲンをかついだ部分もあったかな。

――あらためて、今シリーズの勝因を挙げるとしたら?

 やっぱり投手陣が頑張ってくれた。相手にも良い投手がいるけど、競り合いになればいいなと思っていた。なればこっちのもんだと思っていたから。その展開が良かった。でも、まだプロセスだから、これからも選手にはもっともっと野球を勉強して頑張ってもらいたい。

 自身の喜びより、選手への感謝の言葉が多い。それは実感だろう。以前のような鉄拳もなく、素直に選手たちとともに喜び、泣き、怒りながら、つかんだ頂点だったのだから。

<次回へ続く>

写真=BBM
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