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【MLB】プロ野球とメディアの関係も変革の時を迎えている

 

ネットの普及でメディアの在り方も急速に変化してきた。今後、プロ野球と紙媒体、そしてネット媒体がどういう推移を見せていくのだろうか



 アメリカでは、プロ野球は長年新聞とともに発展してきた。「野球の父」と呼ばれたヘンリー・チャドウィック(1824〜1908)は元新聞記者。1859年に野球のボックススコアを考案、打率、防御率なども考え出し野球報道を内容の濃いものにした。加えてアメリカでは新聞といえば地方紙だが、地方紙の記者が地元球団を日々丹念に取材し、ゲームの面白さをレポートし、ファンとのパイプ役になってきた。

 若手記者は小さな新聞からキャリアをスタートさせ、能力次第で大都市の新聞社に引き抜かれ、スター記者となった。花形の職業でもあった。だがそんな美しい関係が、大きく変わろうとしている。2016年1月、シカゴでインターネットのスポーツサイト「アスレチック」が誕生。クリーブランド、デトロイト、ミネソタ、フィラデルフィア、セントルイス、ロサンゼルスなど各地に支部を広げ、野球はじめ地元スポーツを取材している。

 創設者の一人アレックス・マサーは昨年暮れにニューヨーク・タイムス紙のインタビューで「(新聞業界から)優秀な記者を引き抜き、最後に残るのはわれわれ」とプロスポーツ報道を変えると宣言した。ご存じのようにインターネットの発達で、特にアメリカでは紙の新聞が部数を落としている。少しでも収益を上げるべく、記者は記事だけでなく、ビデオを撮りブログを書くことまで求められる。

 その一方で、アスレチックのモットーは「もう一度スポーツページに恋をしよう」というもの。記者には特集や分析ものなど内容の濃い記事に集中させ、給料も多く払う。こうして野球記者では高名なピーター・ギャモンズ、ケン・ローゼンサルらを引き抜き、全米各地で有能な若手記者を採用した。筆者の仲の良い記者も大勢移って「締め切りを気にせず、納得するまで取材を積み、いい記事を書けるのが良い」と満足そうに話している。2年間でプロ球団のある街を全部網羅する予定だという。 

 1990年、筆者が渡米したころ、「ザ・ナショナル」というスポーツの全国紙が発行され、話題になった。各地の優秀な新聞のスポーツ記者を引き抜き、中身は素晴らしかった。そのときに似ているが、違うのはインターネット時代だということ。「ザ・ナショナル」は紙の新聞ゆえ全米を網羅する配達システムにコストが掛かり、大きな赤字を出し、91年6月に倒産。2年も持たなかった。

 だが今はクリック一つでどこにいようが記事は読める。加えて今の新聞社のウエブサイトはビデオや広告が多くて記事を読みにくいが、アスレチックはすっきりしていて、文章をじっくり読みたい人には良い。課題は有料(年に60ドル)ゆえ、果たして購読者がどこまで増えるのかだ。

 マサーはビジネスチャンスはあると判断している。「実際のところ、スポーツセクションが長年地方紙を支えてきたのに、そのような扱いを受けてこなかった。他のセクションは読まないが、スポーツは読むという読者が少なからずいた」と指摘する。果たして、有料サイト、アスレチックは成功するのか、プロ野球と新聞の関係はどう推移していくのか? メディアも変革の時を迎えている。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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