この年、14勝で最多勝をマークした藤井
今度は泣かせる番だった。
2001年5月22日の
巨人−
ヤクルト戦(東京ドーム)、5万5000人のファンは不思議な光景を見た。9回表、遊ゴロを打ち、一塁に全力疾走したヤクルトの投手・
藤井秀悟がアウトになった後、巨人ベンチに3度、頭を下げたのだ。
この時点で8対1とヤクルトが大量リード。なのに全力で打ち、走った投手・藤井に対し、巨人ベンチから「野球を知っているのか!」とヤジというより、怒号が飛んだのだ。あとで「僕が暗黙のルールを知らなかった」と語った藤井は9回裏、動揺からか涙を流しながらピッチング。本塁打、四球、死球で降板した。
勝負が決まったんだから打者はとにかく投手は打つな、は別に昔から決まっていたものではないが、なんとなくあったのは事実。加えてメジャーの“暗黙のルール”が話題になっていた時期でもある。ホームランを打ってガッツポーズをしたら、次の打席、ぶつけてもいいとか、かなりナンセンスなものだった。
一応言っておきます。少年たちよ、これは日本もアメリカも間違えだ。最後まで全力を尽くしたまえ……。
球界内でも賛否両論があった“事件”だが、藤井が、いわばリベンジを果たしたのが、30日の巨人戦(神宮)だった。8回途中まで巨人を5安打7奪三振で得点を許さず。また、打っては2安打2得点でチームは7対0と快勝。
「打つのは好き。バッターボックスに入るのが一番、気が休まります」と藤井は笑顔。巨人ベンチは沈黙したままだった。
同年、藤井は14勝を挙げ最多勝。チームも優勝、日本一を飾っている。
写真=BBM