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2018甲子園

指揮官を陰で支える奈良大付・中本眞教部長 感無量の1勝で“ミッション”クリア

 

自らも経験しているからこそ


奈良大付・中本部長(左)は関大一OBで1998年、春夏連続で甲子園に出場。田中監督(右)を側面からサポートしている


2018年8月10日
第100回=1回戦
奈良大付(奈良)4−1羽黒(山形)

 羽黒との初戦を3日後に控え、奈良大付・中本眞教部長は「明日の連絡」をするため、選手を集めた。田中一訓監督は所用で外出中。このタイミングを逃してはならない、と指揮官には「秘密事項」をこっそり伝えている。

 中本部長は関大一高時代の1998年、春夏連続で甲子園に出場している。「一番・二塁」で出場したセンバツ決勝では横浜・松坂大輔(現中日)から2安打を放つものの、チームは惜しくも紫紺の大旗を逃している(0対3)。

 夏の甲子園は8強進出。明徳義塾との準々決勝では2対11の大敗を喫しているが、この敗戦が教員を目指すきっかけとなった。それまでは、当時の右腕エース・久保康友(元DeNAほか)に助けられる試合が多かった。それだけに援護できない無念さが残ったという。

「このままで、高校野球は終われない」

 関大では3年から学生コーチとして、指導者としての基礎を学んだ。卒業後は金光大阪高での1年の指導を経て、奈良大付に赴任。現在は野球部長に加え、地歴公民の教諭として教壇に立っている。

 奈良大付は2015年春のセンバツに出場しているが、夏は初陣。今夏は6回目の決勝進出で、天理にサヨナラ勝ちし、ついに壁を乗り越えた。天理と智弁学園の2強が長く奈良の高校野球をリードしてきたが、ついに思い扉をこじ開ける価値ある初出場であった。

 羽黒との1回戦を控えた試合前取材で、中本部長は小声で“秘密”を明かしてくれた。

「8月15日が田中監督の45歳の誕生日。1回勝てば、15日が2回戦なんです。甲子園でゲームがある日に誕生日という偶然は、あまりないこと。選手に伝えると、目の色が変わりました。田中監督本人に? 知らせていないです」

 例年、すでに新チームが始動している時期であり、過去には、チームとしてお祝いをしたことはないという。羽黒との初戦を4対1で制し、春夏を通じて甲子園初勝利(2015年センバツは初戦敗退)を挙げた。三塁ベンチ前で歌った勝利の校歌は格別だった。

「アルプスをちらっと見たら、たくさんの方が応援してくださっていた。感無量です」

 中本部長は甲子園に出場する意義をこう語る。

「私が高校時代、春は69年ぶり、夏は初出場。それまでは疎遠だった卒業生同士も、出場をきっかけに再会したそうです。高校生のときはそこまで感じませんでしたが、今の立場となって強く思います。(奈良大付の前身の校名である)正強OBの方も、すごく喜んでくれた。甲子園を通じて人がつながり、広がるんです」

 黒子に撤する中本部長は、熱血指導を続ける田中監督のために“ミッション”を実行した。選手を鼓舞させた結果、最高の形で8月15日の2回戦を迎えられる。「僕の中でもうれしいこと。ただ、それが選手の緊張にならないように、前向きにとらえてほしいです」(中本部長)。今日の甲子園初勝利を経て、秘密を明かすのかを聞くと「黙っておきます」と言った。しかし、公の場で発言している以上、報道を目にする可能性はある。親しみを込めて言う。

「監督本人も薄々感じているのでは……。オレの誕生日だから勝ってくれ!! と思っているかもしれませんよ」

 奈良大付を作り上げてきた監督と部長の深い絆。最後に、真剣な目で語った。

「監督も言っているように、ウチは天理、智弁学園に入れなかった子たちが、反骨心を持って戦っている学校です。この夏はたまたま勝てましたが、まだ、差があると思っています。いずれは肩を並べるチームになりたいですが、『追いつけ!! 追い越せ!!』のほうが楽しいじゃないですか」

 甲子園に勝利という足跡を残した奈良大付は、常にチャレンジャーであり続ける。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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