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慶大が法大戦で勝ち点3を奪い単独首位へ!「結束」を上回った「ファミリー」

 

試合を決めた苦労人2人


慶大は法大から勝ち点3を奪取。1勝1敗の3回戦の11回裏に同点打を放った大平(左)、12回裏にサヨナラ打の長谷川(右)と、控えの4年生2人が殊勲者となった


「ファミリー」が「結束」を上回った。

 東京六大学リーグ戦の優勝へ向けた大一番。10月3日、46年ぶりの3連覇を狙う慶大は勝ち点2同士の直接対決となった法大3回戦を制して今秋、開幕から3カード連続での勝ち点3を挙げ、単独首位に立った。

 この日はプロ併用日のため、延長15回、もしくは4時間30分を超えて新しいイニング入らないという連盟規定があった。8対8で迎えた12回表の時点で4時間30分を経過し、その裏の慶大の攻撃が無得点に終われば、引き分けという状況であった。

 ベンチ入り25人中、法大は19人、慶大は22人を起用するまさしく総力戦である。延長12回、4時間45分の激闘。最後に勝利を引き寄せたのは4年間、努力を積み重ねてきた2人の控えの4年生だった。

 11回表、法大は川口凌(4年・横浜)の2ランで勝ち越し(8対6)。7回から救援した菅野秀哉(4年・小高工)が力投を見せており、そのまま法大が逃げ切るかと思われたが、その裏二死満塁から途中出場の大平亮(4年・鎌倉学園)が中前へ同点適時打を放った。

 そして、8対8の12回裏一死満塁から代打・長谷川晴哉(4年・八代)が遊撃へのサヨナラ打。レギュラーではない苦労人2人が、試合を決めたのである。

 大平は1年間の浪人を経て一般入試で入学。こちらも一浪組で、慶大でも1学年上となった鎌倉学園高の先輩である石井康平(昨年の学生チーフスタッフ)にあこがれて、慶大を目指したという。石井は抜群のリーダーシップで大久保秀昭監督から全幅の信頼を受けていた。「チーム愛」「絆」を根底に、慶大野球部の組織を抜本的に改革した人物であり、後輩からも慕われていた。大平もその一人だった。「浪人中は石井さんとコンタクトを取ると勉強に集中できなくなると思い、あえて連絡しませんでした。野球のニュースも見なかった」と、1年間は勉強に没頭したという。

 大平は慶大では4年春に初めてベンチ入りした、まさに「たたき上げ」である。「とにかく最後までやり遂げよう、と。自分を信じて3年間、あきらめずに頑張ってきた成果です」。卒業後はIT系の企業に就職するため、この秋で野球を取り組むのはラストである。「これが最後の打席だと思って、自分の野球人生の大仕事をやってやろうと思った。鳥肌が立ちました」と、1球に研ぎ澄ました同点打は、リーグ戦4本目のヒットだった。

「今後、社会人になってつらいときがあっても、今日の一打を思い出せば、頑張れる出来事になるかな、と思います」

 ただ、大平が何よりもうれしかったのは「4年間、一番バットを振ってきた長谷川が結果を出したことです。スタンドで見ている控え選手も、喜んでいたと思います」と笑顔を見せた。長谷川は自称「声だし要員」でベンチ入り。試合後はいつも、声がかれており、チームのために献身的に動く姿勢は誰もが一目を置くムードメーカーだ。この日は22人目の選手として出場。「つなごう、つなごうということで(打席に)立たせていただいた。僕なんか、ここ(ヒーローインタビューの場)にいるのは恥ずかしい。感無量です」。リーグ戦2本目のヒットが劇的なサヨナラ打となった。


法大の圧力を感じながらも


 実はこの試合、一つのジャッジによって、神宮は大混乱となった。法大の攻撃、8回裏一死一、三塁からの一ゴロの挟殺プレーをめぐって、三塁塁審がミスジャッジを認めた。判定に納得ができない法大・青木久典監督は13分にわたり抗議。「(審判員から)間違えました、と。申し訳ないが、このままやってほしいとの話がありました。審判員は尊敬しています。(アウト、セーフの判定は)覆らないことは分かっていましたが、選手たちは必死……。私が引き下がるわけにはいかなかった」と、青木監督は試合後に語った。

 最終的に法大サイドが折れる形となった。山口球審の計らいにより、マウンド上での円陣の時間が設けられ、法大ナインはもう一度、切り替えようと誓い合った。一死満塁で試合は再開。菅野は後続2人を抑え、このピンチをしのぎ、延長へと突入。しかし、12回裏に後続投手が踏ん張れず、力尽きている。

 不運な展開にも気持ちを切らさない法大の姿に慶大・大久保監督は興奮気味に語った。

「法政の結束を感じた。今までにない圧力を感じた。ウチがそこに負けず粘った。野球は分からない。久しぶりに熱くなった。長谷川? うれしいですよ、一番練習する選手ですから」

 2012年秋以来の優勝を目指す法大の猛烈な気迫にも、慶大が上回った理由を長谷川が明かす。法大は甲子園経験者をそろえ、大久保監督が言う「スター軍団」の一方、慶大は高校時代に実績を積んできた選手は少ない。大学入学後にコツコツと練習を重ねてきた集団だ。

「ウチには、だれがすごいという選手がいるわけではありません。1年生から4年生まで167人、誰が一人欠けても成り立たない。束になって戦うしかない」

 大平も言う。

「監督は選手一人ひとりに分け隔てなく声をかけてくれる。何気ない会話から信頼が生まれる。今年のチームスローガン『超越 独創 敬意 〜I GOT FAMILY〜』の一節にもありますが、『ファミリー』の意識が強いと思います」

 今年の4年生37人で卒業後に、野球を続ける部員はいない。今春、秋春連覇に大きく貢献した主将・河合大樹(4年・関西学院)はシーズン序盤の故障のため、バットが振れず、代走のみの出場に限られる。この日の先発4年生は副将・内田(4年・三重)のみ。ベンチを温める機会の多い控えの最上級生が「出られない河合のため」と、この法大3回戦で奮起したのだった。試合後、河合はロッカールームから足取り軽く出てきた。

「普段、うれしくて涙を流すことはないんですが、今日は自然と出てきた。大平と長谷川は積み重ねてきたものを、出してくれた」と感激の面持ちだった。

 法大・青木監督は「紙一重なのかもしれませんが、まだ、何か足りないのか……」と悔しさをにじませた。9対8。とはいえ、法大のチームスローガンである「結束」を、敵将の口から引き出したのは大きな前進であり、次につながるはず。結果的にほんのわずかの差で「ファミリー」の強い思いが上回った。強い者が勝つのではない。勝ったほうが強いのだ、と。慶大ナインが4時間45分に及ぶ熱戦を通じ、あらためて証明した。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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