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今秋の暫定首位打者。ドラフトの日を信じて待つ明大・渡辺佳明

 

通算100安打はならずも


明大・渡辺は東京六大学リーグで通算95安打。第7週を終えて打率.420のリーグ1位で、全日程を終えている


 リーグ史上33人目の100安打を狙わせるか、それとも首位打者を取らせるか――。指揮官は後者の可能性を選択している。10月21日、立大2回戦で明大・善波達也監督は7回、三番・渡辺佳明(4年・横浜高)の打順で代打を告げた。

 この試合が始まる時点で法大・小林満平(4年・中京大中京高)が東大2回戦で勝利し、打率.419で全日程を終えていた。一方、渡辺の打率は.417。明大は立大1回戦で先勝しており、この試合に勝てば、明大のシーズンも終了となる。2打数1安打ならば1厘上回り単独1位に躍り出るが、3打数1安打(.412)だとトップに立てない計算だった。渡辺は立大1回戦を終えた時点で通算94安打としており、100安打も視界に入れていた。

 初回に適時打を放って通算95安打。2対2の同点で迎えた3回の打席は凡退し、5回には四球を選んだ。明大は6回に1点を勝ち越し7回に第4打席が回ってきたところで、善波監督は動いた。

「勝ちのゲームになったので……。佳明は『100本を目指したい』と言っていたが、(仮に2回戦を落として3回戦となり)明日も考えても(残り5本は)難しいかな、と。首位打者の可能性を残させたい」

 最終週・早慶戦の結果次第では慶大・中村健人(3年・中京大中京高、打率.364)にもタイトルの可能性は残されているものの、当面は6打数5安打以上の数字が必要になる。明大は8回に追いつかれるも、10回裏にサヨナラ勝ち(4対3)。渡辺は打率.420で、今秋のラストシーズンを終えている。

すべてを出し切った達成感


 今秋の開幕時点で74安打。大台まで26安打とは、現実的に難しい数字と言えた。しかし、渡辺は絶対にあきらめなかった。

「100本を目標にしていけば、自然と打率も上がるでしょうし、チームの打順もうまく回る。結果的にキャリアハイの成績を残すことができました。最後は打席に立ちたい気持ちもありましたが、首位打者を取りたいという目標もあった。監督の配慮により、暫定1位に残れたのは良かったと、感謝しています」

 開幕から10試合連続で安打を積み上げ、ヒットが出なかったのは1試合のみ。計14試合で21本の安打を積み上げた。「100」には届かなかったものの「自分としてもすごい、と。こんなに打てるとは……。満足しています」とすべてを出し切った達成感があった。

名将の孫という立場


「目標がその日その日を支配する」

2015年夏まで横浜高を率い、甲子園では春夏を通じ5度の優勝へ導いた渡辺元智前監督の座右の銘である。渡辺は名将の孫に当たる。

 渡辺氏はほぼ全試合、神宮で明大の試合を観戦。この日も一塁側スタンドでスコアブックを手に、孫のプレーに目を光らせた。試合後にはいつも、気づいたことを助言してきたという。祖父は目尻を下げながら、こう言った。

「孫ということで、人には言えないプレッシャーもあったはず。ただ、一度も愚痴を聞いたことがない。振り返れば、一途に横浜高校でプレーしたい、絶対にレギュラーを取って甲子園に出場するんだ、という意思を貫いてきた(一塁手で2年夏、3年春の甲子園出場)。明治への進学も実は、反対したんです。でも、あえて厳しい道を選んだ。我慢し、自分でトライしきたことを褒めてやりたいと思う」

 そして、こう続けた。

「身内としての立場と、監督との使い分けが難しかった。いま思えば、横浜高校に来てくれて良かったと思っています。選手たちに常日頃から『ダメだと思っても目標に向かっていけ!!』と言ってきたことを否定することなるわけですから。我慢しながら、自分の目標に向かって努力してきたことは価値がある」

 祖父であり、指揮官の格言を、そのまま孫が体現したのだ。渡辺の次なる目標は「プロ入り」。10月25日にドラフト会議を控える。

「夢からだんだん、目標になった。行きたい場所に変わってきている。小さいころからプロ野球を見てきて、地元のベイスターズの選手にあこがれを持ちました。自分も『渡辺のようになりたい!!』と、子どもたちから目標とされる選手になりたいです。25日を信じて待ちたいと思います」

 この日の立大2回戦を視察したDeNA吉田孝司スカウト部長は「バットコントロール、ミートがうまい。体全体に力がついてくれば、(プロでも)十分やっていける。(遊撃守備も)グラブさばきが良い」と高評価。今ドラフトにおける最終リストに残っているのかを再確認すると「入っています」と答えている。

 渡辺氏は「最終的には、人生の勝利者になってほしい」と祖父の顔を見せた。渡辺にとっては、ドラフトへのすべてのアピールは終わった。「運命の日」まで、あと3日である。

文=岡本朋祐 写真=菅原淳
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