読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。 Q.広島の大瀬良大地投手が前半戦だけで10勝を挙げ、最終的に15勝で最多勝を獲得する活躍を見せました。プロ1年目と昨シーズンに10勝を挙げましたが、それ以上は勝てず、2年続けて活躍したこともなかったですが、なぜ今年はこれほど勝てるようになったのでしょうか。大瀬良選手の特徴と併せて教えてください。(広島県・28歳)
A.試合を作る意識が高まり、フォーム改造で球威&制球力も増した
まず初めにお話ししておきたいのですが、先発投手というのはどうしても勝ち負けで語られることが多いですが、打線の援護、サポートがないと勝ち星を積み上げることはできません。例えば昨季は10勝に終わりましたが、防御率は3点台で敗戦はわずかに「2」だけですからね。ちなみに、1年目(2014年)に10勝を挙げた翌年と翌々年はリリーフがメーンでした。
昨季、先発メーンに戻った大瀬良選手ですが、どこに重きを置いているかというと、勝ち負けはもちろんでしょうが、QS(クオリティー・スタート)でしょう。先発投手が6イニング以上を投げ、かつ3自責点以内に抑えた際に記録されるもので、先発投手を評価する1つの項目のことです。
今季、大瀬良選手は27試合に先発登板しましたが、実に21試合でQSを記録しています。これは2年連続で沢村賞を獲得し、大瀬良選手と並んで最多勝を獲得した
巨人・
菅野智之選手の19試合よりも多く、セ・リーグトップの記録でした。QS率にすると78パーセント。つまり、8割近い登板試合でゲームを壊さずに、先発投手としての役割を果たしていると言えます。
ちなみに、昨季引退した
黒田博樹(元
広島、ドジャース、
ヤンキース)がアメリカで評価されたのもQS率の高さからです(勝ち星にはあまり恵まれませんでした)。きっと、大瀬良選手も彼に学ぶところが多かったのでしょう。球数を少なく、6回、7回、8回と粘れば、“逆転のカープ”の打線がありますから、白星には恵まれなかった昨年までとは異なり、今季のような結果を得られたのだと思います。21QSですから、全部勝っていてもおかしくなかったはずです。
意識の変化に加えて、大瀬良選手本人の技術力の向上も無視できません。でなければキャリア最高の防御率2.62(セ・リーグ3位)は成し得なかったと思います。よく新聞やテレビなどで取り上げられた二段モーションも追い風になったことは確かです。もともと制球が良く、ここに二段モーションによって軸にしっかりと体重を乗せられるフォームになったことで、ボールに力をロスなく伝えられ、球威も増し、制球もより一層研ぎ澄まされました。来季も楽しみな右腕です。
●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に
楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。
写真=BBM