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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

広報としてチームの力に。“強気で謙虚な男”オリックス・佐藤達也氏

 

セットアッパーに君臨した2013、14年は最優秀中継ぎのタイトルを獲得。強気の投球でベルペンを支えた


 マウンド上とは対局な姿勢に驚く人は多いだろう。現に「よく言われます」という。昨季限りで現役を引退し、今年から球団広報に就いた佐藤達也氏のことだ。どこまでも謙虚な男は、年明けから仕事に精を出すが「右も左も分からない」と苦笑いも浮かべる。

 そんな男の野球との出会いは意外なものだった。7兄姉の末っ子の佐藤氏は、兄の影響で小学生時代はバスケットボールに夢中な少年だった。

「2番目と、3番目の兄がバスケが好きで。遊びでよくバスケをしていたんですよ。(マンガの)スラムダンクも大好きでしたし、ブルズ時代のマイケル・ジョーダンが大好きで。中学に進学したらバスケ部に入ろうと決めていたんです」

 だが、進学先の中学校にバスケ部はなかった。

「友達が多く野球部に入ると言っていたので、じゃあ自分も、と」

 ひょんなことで始めた野球だったが、「僕は身体能力が高いわけでもなかったので、打って走って守るという野手よりは、投げることに専念できる投手のほうがいいのかな、と。それにやっぱり華型ですから、やりたいという憧れもあったんです」と投手を志願。埼玉・大宮武蔵野高では甲子園経験こそないが、ドラフト注目選手にも名が挙がった。

 高校卒業後にプロからの指名はなかったが、東海大北海道、Hondaでプレーを続け、12年ドラフト3位でオリックスに入団。「まさかプロ野球選手になれるとは」という右腕だが、プロの舞台で見せた強気の直球勝負と、ピンチにも動じぬマウンドさばきは痛快だった。ストレートのほかにはスライダーとフォークのみ。セットアッパーに君臨し、9回・平野佳寿(現・ダイヤモンドバックス)との勝利の方程式を形成。2013、14年には最優秀中継ぎを受賞している。

 7年間で残した成績は262試合登板で11勝21敗109ホールド、防御率2.71。球宴にも2度出場したが「誇れるものは何もない。僕なんか全然です」と、どこまでも謙虚。ただ、これが右腕の源でもある。

「1年目に周りのすごい投手を見て『自分には無理だ』とあきらめたんです。だから、2年目に入る前に、考えを割り切りました。どうせダメなら、とにかく全力で腕を振って、打者と対戦していこう、と」

 自分は通用しない――。そう自覚したことが、右腕の“強気”を生んだのだ。

 それでも後悔が1つある。「2014年のソフトバンクとの最終戦に負けて、優勝を逃したこと。あの試合、自分の投球がどうこうではなく、何とか勝ちたかった。あの年、僕は4敗しているんですけど、そのうちの1敗がなければ。どこか1試合で流れが変わる投球ができていれば。その1つで優勝できていたかもしれない。“たら、れば”ですけど、今でもそう思っているんです」。

 悔しさは今も胸に残るが、だからこそチームのためを考える。「まだ選手としてできるという気持ちはありましたが、昨年は一軍で投げられなかったという事実もある。客観的に選手と球団職員のどちらでチームの力になれるかと考えたんです」。
 
 マウンド上での強気の姿勢はもう見られないが、広報として選手を献身的にサポートする。“強気で謙虚な男”の選択は、必ずチームの力になるはずだ。

文=鶴田成秀 写真=BBM
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