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【MLB】MLBかNFLか 大学二刀流選手の難しい選択

 

アスレチックスに1巡目指名されたマレイは、大学のアメフト選手最高の名誉、ハインズマン賞を受賞。NFLの指名も受けそう。さあどちらを選択するだろうか


 野球とアメフトの二刀流、NCAAのトップアスリート、カイラー・マレイの進路が分かなくなってきた。

 マレイは昨年2月から6月の野球シーズンに、オクラホマ大の中堅手として打率.296、10本塁打、47打点、10盗塁の活躍。6月のドラフトでアスレチックスから一巡9番目に指名された。アンドリュー・マカッチェンのようになると期待され、契約金も466万ドルだった。普通の選手なら、そのままチーム傘下のマイナーチームに送られ、プロ生活をスタートするのだが、マレイは同大の全米有数の名門アメフトチームのエースQB(クオーターバック)でもあり、9月から12月は大学でプレーした。

 そして大活躍。パスで4361ヤード獲得、42TD、走っても1001ヤードのゲインで12TD。大学最優秀選手に与えられるハイズマン賞を受賞、チームも王座決定戦出場の手前まで勝ち進んだ。

 彼は身長178センチとNFLのQBとしては小柄で、アメフト選手としては大学までと見られていたのだが、この大暴れで、NFLのスカウトが見直し、4月のドラフトでも一巡指名の可能性があると評価され始めた。近年の例を見れば、NFLの一巡指名なら、アスレチックスからの466万ドルの倍以上の契約金を手にできる。

 慌てたアスレチックスはビリー・ビーン編成本部長はじめ球団首脳がマレイ本人やスコット・ボラス代理人に会い、新たにメジャー契約を結ぼうとしている。現在のMLBのルールではドラフト選手は即メジャー契約を結べないが、マレイはドラフト後、一旦マイナー契約を結んでから半年が経った。

 ゆえに契約のやり直しが可能というのがMLB機構の解釈で、そうしないとNFLの高額の契約金には対抗できない。スーパースター候補生を巡って、MLBとNFL、両リーグの争奪戦にも発展してきたのである。

 ちなみにマレイ自身は、というとアメフットのほうが好きだ。テキサス州の高校生時代は42勝0敗の無敵QBで、オクラホマ大でもホーム球場の8万6000人のファンを熱狂させてきた。そのまま華やかなQBの舞台に立ちたいのが本音だ。しかしながらアメフトはケガが多いスポーツで、とりわけ彼のように小さくて細い選手は一撃で壊される心配があり、長くプレーできる保証はない。

 一方、野球は実力さえ証明できれば長くやれる確率が高い。ただMLBに昇格するまでは、数年間マイナーの小さい球場で下積みを積まねばならない。マレイと似た経験をした選手にドリュー・ヘンソンがいた。ミシガン大のQBだったが98年、ヤンキースから三塁手としてドラフトされると野球を選んだ。

 当時は現在のルールと違い、いきなり6年1700万ドルの好条件をもらえたのが大きかった。しかしまったく打てず、メジャーに短期間昇格したときも、8試合で8打数1安打。アメフットでやり直したいと考えたヘンソンは1200万ドルの残っていたサラリーを破棄して転向。しかしブランクが響いたのだろう、NFLでも5シーズンで、9試合出場1TDのみ。20年前、無限の可能性があると期待されたヘンソンは、結局どこにも辿り着けなかったのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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