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【MLB】リベラ満票で殿堂入り。考えを変えた投票者の思考過程

 

史上初の100パーセントの投票率で一発での殿堂入りとなったリベラ氏。クローザーとしての価値で論争が起こるなど、近代野球の価値観も変化してきているようだ


 マリアノ・リベラが殿堂入りを果たした。特筆すべきは425人の野球記者全員が彼に投票し、史上初めて満票の100パーセントで選ばれたこと。1936年、初めての選出でもタイ・カッブに4人、ベーブ・ルースに11人も入れなかった記者がおり、ノーラン・ライアンのときにも6人投票しなかった記者がいた。

 過去最高の得票率は2016年のケン・グリフィー・ジュニアの99・3パーセントだがそのときも3人が入れなかった。アメリカ社会は多民族人種が共存し、考え方も多種多様。今もドナルド・トランプ大統領に対し反トランプか親トランプかで、国論が二分されるお国柄だ。

 それだけに、よくぞ425人の記者が同じように投票したものだと思う。とはいえ一波乱はあった。12月22日、ボストンのベテラン記者ビル・バルーがコラムで「記録の中で最も簡単に手が届くのがセーブ」と持論を展開し、史上最高のクローザーと認めながらも「リベラは私から殿堂入りの投票は得られない」と明言した。

 とはいえ、史上初の満票の機会を阻むほど強い考えではなかったこともあり、今回は投票を棄権しようとした。ちなみにセーブへの評価が下がっているのは、打率同様、統計学に基づく、近年のMLBのトレンドでもある。そして優秀なリリーフ投手は9回に固定するより試合終盤の最も重要な局面に当てるべきと言われている。昨年ナ・リーグの最優秀リリーフ投手はブリュワーズの左腕ジョシュ・ヘイダー。55試合に登板したが、起用は主に7、8回で、イニング数も81.1イニングでイニングまたぎが多かったことで、12セーブにとどまったが「最優秀」となった。

 筆者はバルー記者と電話で話した。このとき「リベラも最高のシーズンは96年、セットアッパーのとき。61試合、107.2イニングに投げ、セーブは5個だがサイ・ヤング賞投票でも3位だった」と指摘する。リベラは97年以降クローザーに定着、イニング数は毎年70回前後。「野球という競技は試合に出れば出るほど、弱点が見えてきて、相手がそこをつく。加えて疲労が蓄積し、ケガをおして戦うときもあるから、個人成績も落ち着いてくる。しかしながらクローザーはイニング数が少ないからそうはならない。仮に打者が300打席で4割を打っても誰も首位打者とは見なさない」との論法だった。

 そんな彼が考えを変えたのは、コラムへの反論が殺到し、その中には「合理的で筋道が通った意見もたくさんあったから」と明かす。「特に大きかったのはデビッド・オルティスとの類似点を指摘されたこと。2人はDHとクローザーで試合に出る機会は限られるが、チームの成功に与えるインパクトはとても大きい。野球は昔と違いフルタイムで出る選手が減り、スペシャリストの時代になっている。私はオルティス(22年に資格を得る)には投票するつもりだから、彼だけに入れてリベラに入れないわけにはいかないと思った」と言った。

 オルティスも旧来の考え方なら、守備をしないことがマイナスになるはずだ。しかし、勝負強い打撃でボストンに3度の栄冠をもたらした。バルーは地元記者としてその価値をよく分かっている。そこでニューヨークの優勝請負人・リベラにも一票を投じたのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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