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プロ野球1980年代の名選手

桑田真澄 栄光と挫折、挫折と栄光を繰り返した「心の野球」/プロ野球1980年代の名選手

 

1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。

巨人ドラフト1位という“挫折”


巨人・桑田真澄


 1985年の秋、巨人の監督だった王貞治が、巨人を退団してから「私の強行指名で悪いイメージがついてしまい、本当い申し訳ない」と言ったことがある。桑田真澄は首を振った。巨人への入団は、早大への進学と同じくらい大きな夢だったからだ。ただ、ずっと神様に、

「一番いい道を進ませてください」

 と祈っていた。巨人の指名を聞いて、これが「一番いい道」だと思っただけだった。

「皆さんの言う神様じゃない。自分の神様なんです。いないかもしれないけど、僕はいるんだと決めて、その人に近づけるようにしたいと思っています。運だのみとかじゃないですよ。まずは努力。あきらめずにやっていけば野球の神様が見ていてくれる。そういう存在なんです」

 PL学園高で1年の夏からエースとなって甲子園に出場して優勝に導き、以降5季連続で出場して最後の夏も優勝。早大への進学を明言していたが、ドラフト1位で指名されて86年に巨人へ。まさに栄光の軌跡といったところだが、この入団で一転、ヒールとなる。PL学園高で“KKコンビ”と騒がれた清原和博が巨人への入団を熱望し、指名が確定的と言われながらも指名すらされず、会見で涙を見せる一方での強行指名。これが巨人との密約があったかのように報道されたこともあり、人間不信にも陥った。

 開幕してからも、西武へ入団した清原が新人とは思えない活躍を続けるのとは対照的に結果を出せず、6月5日の阪神戦(後楽園)で初勝利を完投で飾るも、足踏みが続いた。最終的に31本塁打を放って新人王に輝いた清原の一方で、15試合の登板で2勝1敗、防御率5.14。世間からの冷たい視線や言葉も浴びたが、この結果に自身も、

「このままいったら2、3年でクビ」

 と危機感を持ち、トレーニングや栄養学などの勉強を始めて、野球に改めて取り組んだ。

 PL学園高では、ストレートとカーブだけで投げることを自分への試練としていた。少しずつ球種を増やし、少しずつ体を大きくして球速も上げて、10年後に完成する。これが当時の目標だった。だが、プロ2年目にして、投球の幅は一気に広がる。新たに習得したスライダーを武器に、その87年はリーグ最多の207イニング2/3に投げまくって初の2ケタ15勝。防御率2.17で初の最優秀防御率、沢村賞に輝いて、王監督の初優勝に貢献した。

若手のころから将来を見据えて


 ウエートや水泳でのトレーニングにとどまらず、アイシングやノースロー調整なども取り入れ、“カーボ・ローディング”(炭水化物貯蔵法)と呼ばれる食事法も実践。中5日の先発ローテーションに合わせて、登板後の2日は好きなものを食べて、その後2日は炭水化物を抑え、登板の前日に炭水化物を大量に摂ることで吸収の効率を上げる、というものだ。

 独学で得たもので、30歳になってからを見据えて始めたのが87年。まだ19歳のころだ。当時はアイシングをして怒られたこともあったという。90年代の右ヒジ手術後はピアノ演奏、2000年代のフォーム改造では古武術を参考にするなど、いいと思ったものは積極的に取り入れていった。

 初めて開幕投手を任された88年はスプリット、通称“サンダーボール”の習得に取り組み、10勝。初めて日本一を経験した89年には槙原寛己斎藤雅樹と“先発三番柱”と言われ、自己最多の17勝を挙げている。

 その後も波乱万丈だ。リーグ最多の185奪三振をマークした94年には、中日とのプロ野球で初めてとなる最終戦同率決戦“10.8”に槙原、斎藤の後を受けて3番手として登板して試合を締めくくり、胴上げ投手に。ただ、涙を流したのは試合の前。それまでは思い出したくないような汚いヤジを浴びてばかりだったが、ファンから初めて熱い声援を受けて、いつの間にか泣いていた。

 そして初のMVP。翌95年に右ヒジ側副じん帯を断裂も、手術、リハビリを経て97年に復活する。2007年にはパイレーツと契約して39歳70日でメジャーデビュー、19試合に登板した。翌08年3月に引退を表明。栄光と挫折、挫折と栄光を繰り返した「心の野球」は22年もの長きにわたった。

写真=BBM

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週刊ベースボール編集部

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