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【阪急の“ピンストライプ”が復活】元南海・江本孟紀が語る“阪急の強さ”

 

山田久志と投げ合い、認められた


南海のエースだった江本孟紀(左)は、阪急のエース・山田久志(右)と互角に投げ合ったことで「認められたんだよ」という


  王貞治長嶋茂雄の「ON」が君臨する巨人は、1965年(昭和40年)から73年(同48年)にかけて、9年連続の日本一を達成している。

 その「V9時代」に、日本シリーズの舞台で、阪急が巨人に挑んだのは計5度。しかし、闘将・西本幸雄率いる阪急は、王者のカベを一度もぶち破れなかった。

 そうした悔しい歴史があるとはいえ、当時の阪急はまさしく「黄金期」を迎えていた。5月28〜30日のソフトバンク戦(京セラドーム)で、オリックスの選手たちが着用する、アイボリー地に黒の縦じま、胸に「Braves」のロゴが入ったユニホームは、1970、71年(昭和45、46年)のホーム用。67年(同42年)からはリーグ3連覇、さらに71、72年とリーグ連覇を果たしている。

 その「強き勇者」の象徴ともいえる存在だったのが、エース・山田久志であり、世界の盗塁王・福本豊であり、勝負強い四番・長池徳二(現・徳士)だった。阪急の屋台骨を支えていた強力なこの3人に、ライバルとして立ち向かっていったのが、今回の対戦相手・ソフトバンクの前身、南海のエースだった右腕・江本孟紀だ。

「俺はねえ、山田と投げ合ったことで、認められたんだよ」

 1947年(昭和22年)生まれの江本は、山田より1歳年上。ドラフト外で71年(同46年)に東映入りすると、翌72年に南海へ移籍。その年の4月9日の開幕戦は阪急とダブルヘッダー。その2戦目が、江本と山田の投げ合いだった。

 71年、山田は2.37で最優秀防御率のタイトルを獲得。22勝を挙げたサブマリンは、それこそ敵なし。

「その年の山田、絶好調。こちらは無名の江本。江本って、誰やってところだよ」

 その2人の投げ合いは、スコアレスのまま延長12回にもつれこみ「一死満塁から、カーブが曲がらなくて死球。それで負けたんだ」。江本の記憶が鮮明なのは、試合後、当時の野村克也監督が、帰路についたバスの車中で突如マイクを握り「ええか、お前ら、江本に借りがあるからな」と選手たちに説教までしたからだ。

 江本はその年に16勝。山田との投げ合いが、飛躍へのステップとなったのだ。

「あのとき、DH制じゃなかったから、俺も2回バントしたんやけど、かすらんかった。下手投げで、あんな下から球が上がってきて、しかもあんな速い投手はおらんで」

長池徳二、福本豊にも「打たれた、打たれた、そりゃ、打たれたよ」


“世界の盗塁王”こと福本豊(左)、71年に当時の日本新記録となる“32試合連続安打”をマークした長池徳二と、阪急打線は強力だった


 福本との対決も「大変やった」と江本はいう。野村南海のID野球は当時から「今みたいにパソコンはないから、全部手書き」での詳細なレポートをもとにしてのミーティング。福本は「初球を打たない」という傾向が出ていた。

「江本、何、投げるんや」と野村監督に問われた江本は「初球、外角でも内角でもストライクを入れます」。それでも、数試合を重ねると福本にも、南海バッテリーの傾向が分かったのだろう。「何試合かやったときに、初球本塁打をやられた。データも当てにならんかった」と江本は振り返る。

 もちろん、その「足」との戦いもし烈だった。南海投手陣が、当時はまだスタンダードではなかった、ランナーを背負った際の「クイックモーション」を徹底したのは、捕手・野村が決して強肩ではなく「クイックは、ノムさんの肩をカバーするのが一番。福本の足がすごくて、ノムさんの天敵やったから」と江本は明かした。

 福本の13年連続盗塁王の初年度は70年。72年には当時世界記録の106盗塁を記録し「だいたい、100回も盗塁でけへん。まず、100回塁に出ているわけやからな。だから、もう走らせるときは走らせた。クイックやってもダメなときはダメやったもんな」と評する。

 さらに四番・長池は、71年に当時の日本新記録となる「32試合連続安打」をマークし、パ・リーグのMVPも獲得。72年には41本で2度目の本塁打王にも輝いた。江本にとっては、法大の先輩でもある。

「今までやってきた中で、インコースを打つのが、一番うまかったと思うのが、あの人やね」

 投球の組み立ては、外角低めと内角高め。その対角線で攻めていくのが、基本中の基本。ところが、長池はその内角高めを「大根切りで、天才的な打ち方」で、こともなげにさばくのだという。

 その秘訣は、アゴを左肩に乗せる独特のフォームにあった。内角をさばくために、体が先に開かないよう、長池が編み出した、独特の構えなのだ。

「だから、インコースに球が抜けてもいかれた。体に当たりそうな球でも、ガバンといかれた。打たれた、打たれた、そりゃ、打たれたよ」と手痛い思い出しかないのだという。

「ノムさんも、阪急対策しか考えてなかった。当時は、そりゃすごい選手、ばっかりやったもん。加藤秀司大熊忠義当銀秀崇大橋穣。大橋さんなんか、ホンマにうまかったで、ショート」

 すらすらと、江本の口から黄金期の「勇者たち」の懐かしい名前が飛び出してきた。最後は“エモやん節”をまじえた辛口の注文?で、思い出話をまとめてくれた。

「山田とか、阪急のユニホームを着るんか? ソフトバンクは、南海のユニホームでやるの? 俺のところ、その話、来てないけど?」

 そう言って、エモやんは大笑い。とはいえ、江本が山田と投げ合い、福本に、そして長池に投げる。そんな「半世紀前のドラマ」を再現させる機会があってもいいような気がした。

取材・文=喜瀬雅則 写真=BBM


【オリックス・バファローズが『KANSAI CLASSIC 2019』開催】
 かつて関西を本拠地とした『阪急ブレーブス』『南海ホークス』が、5月28日(火)〜30日(木)に復活を遂げる。両チームの監督・コーチ・選手たちが、復刻ユニフォームを着用し戦いに臨む『KANSAI CLASSIC 2019』。オリックスは5月28日からの対ソフトバンク(京セラドーム)で『1970、71年の阪急ブレーブスのピンストライプのホームユニフォーム』を着用する。なお、28日は山田久志氏、29日は長池徳士氏、30日は福本豊氏がOBゲストとしてBsStageでのトークショー及び試合前のセレモニアルピッチ(プレ始球式)を行う。
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