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週べ60周年記念

阪急は巨人のスパイに負けた?/週ベ回顧

 

 昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

広島カープの大混乱


表紙は巨人長嶋茂雄


 今回は『1967年11月13日増大号』。定価は70円。
 
 1967年10月28日、巨人が阪急を4勝2敗で下し3年連続日本一に輝いた。MVPは好リードを評価され、巨人の捕手・森昌彦が手にしている。

 第2戦で完封勝利の堀内恒夫は、第5戦にも先発し、7回を終えた時点では3対1とリードしていたが、8回にスペンサーに同点2ランを浴び、結局、敗戦投手となった(3対6)。
 もし2勝していれば、間違いなく、MVPだったろう。
 堀内は、
「自動車(MVPの賞品)には確かに乗った。そしてハンドルを握ってギアを入れたんだ。ところがそれがバックだったんだよ。前進だったらなんてことはなかったんだが」
 と嘆いた。

 MVPの森だが、実は開幕前後の時期に移籍話があった。
 肩の衰え、大橋勲の成長もあったが、実はベロビーチキャンプに発端があったという。
 このとき、元巨人で、川上哲治監督と軋轢があった解説者の広岡達朗が取材に来たのだが、巨人は広岡のドジャー・タウンでの居住を禁じ、広岡と親しかった森が「それはおかしい」と反発し、川上派の逆鱗に触れた。実現しなかったが、東京との移籍話が進んでいたという。

 敗れた後、阪急・青田昇が盛んに「巨人のスパイに負けた」と言っていた。青田は元巨人で現役時代、川上のライバルでもあった男だ。

 ただ、川上監督は「スパイ」という言葉が大嫌いだと言い、真っ向からそれを否定する。
「うちは隠密裏にやったわけじゃない。福田君(昌久コーチ)をネット裏にやって、堂々と観察させていただけですよ」

 しかし、それは表向き。というか、川上監督ではなく、牧野茂コーチの指示だったのかもしれないが、実際には報知新聞の記者、日本テレビの社員も使って、プレーの傾向だけじゃなく、選手の性格、私生活面までかなり細かく調べ上げたようだ。
 森昌彦にいたっては、南海の野村克也の自宅に泊まり込んで阪急の選手の情報収集をしたらしい。

 先発投手もほぼ読み切り、サインもおそらくはばれていた。
 青田コーチは、
「内部にスパイがいるのかと思ったくらい」
 と話していた。

 10月21日、日本シリーズ第1戦があった日、12球団のオーナー会議が行われたが、ここで東京の永田雅一オーナーがセ・パの交流戦を提案。集まった記者にも提案書を配る熱心さだった。

 それによれば、リーグ内の試合を100試合、両リーグの交流試合を36試合行うというもので、時期はオールスター前後としている。
 交流戦は3年ほど前、メジャー・リーグのフリック・コミッショナーが提案したことがあったが、実現しなかったもの。日本球界でも一部の人は知っていた。

 驚くべきことに、これに対し、ほとんどの球団が興味を持ったという。巨人戦が減るセ球団は、猛反対してもおかしくないところだが、九州読売を拡販したい巨人が、西鉄との試合が組まれることで前向きな姿勢を見せたことが大きかったようだ。
 もちろん、単にオーナー会議だから、でもある。

 広島カープが混乱状態になっていた。
 まず、10月22日、松田恒次球団社長が辞表を出した。当時のカープは、地元財界、後援会の合議制だったが、実質的には松田が社長を務める東洋工業の支援なしでは成り立たず、実質的なオーナーと言われていた。

 しかし、翌23日になって松田社長は「広島カープを東洋工業でやろうと思う」と発言。今度は球団重役が次々辞めていった。
 松田社長は、
「いまの機構ではやっていけない。後援会やいろいろな人の圧力だけではカープを育てることは難しい」
 という考えだった。この年限りで長谷川良平監督が退任し、次期監督を探していた時期なのだが、合議制となっている分、意見がまとまらず、一部は勝手に「君、頼むぞ」と声をかける混乱状態。
 松田社長も腹をくくって、球団経営に乗り出す覚悟を決めたらしい。

 問題は、広島市民球場。ここは国有地に市民のため、県民のため、という面目で建設が許可されたもの。企業チームになると使用許可が出ない可能性もある、とうわされていた。
 元代表の河口豪は、
「東洋工業が中心でやっていくにしても、市民球団であるという原則は崩せまい」
 と言っていた。

 そうだ。三原脩監督とともに辞めるといっていた大洋・中部謙吉オーナーは、
「あのときは少し酔い過ぎて口にブレーキがかからなかった」
 と撤回していた。

 では、またあした。
 
<次回に続く>

写真=BBM
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