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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

なぜ、大阪桐蔭・西谷監督は「監督通算勝利数」に興味を示さないのか?

 

トップに立つのも時間の問題だが……


大阪桐蔭・西谷浩一監督は歴代3位の甲子園通算55勝(9敗)。しかし、この数字に一切の興味を示さないのには「理由」があった


 7月に入り、高校野球の夏が到来である。そこで、気になるテーマを一つ。毎年8月、甲子園でクローズアップされるのが「監督通算勝利数」である。

 しかし、正月の高校サッカー、花園の高校ラグビーを見ても、この数字にフォーカスされることはまずない。プロ野球においては、監督勝利数が話題に上ることはあっても、当事者はさほど、興味を示さない。当然である。グラウンドでは、選手が主役であるからだ。

 高校野球に話を戻す。甲子園における、監督通算勝利数の歴代1位は、智弁和歌山を昨夏まで率いた高嶋仁氏の68勝だ。2位はかつてPL学園(大阪)を指揮した中村順司氏の58勝。そして、3位には大阪桐蔭・西谷浩一監督が55勝で迫っている。

 西谷監督は現在、49歳。

 中日根尾昂ロッテ藤原恭大を擁した昨夏は史上初、2度目の甲子園春夏連覇へ導いた。ここ最近の大阪桐蔭の躍進を見れば、西谷監督がトップに立つのも、時間の問題と言える。

 しかし、西谷監督は、こうした個人的な結果にまったく視線を向けようとしない。盛り上がっているのは報道する側だけであり、現場サイドは目の前の大会に集中するのみ。

 それは、なぜか――。毎年、フレッシュな気持ちで、生徒と向き合っているからである。言うまでもなく、高校野球は約2年5カ月の短期決戦であり、メンバーが入れ替わる。最上級生が卒業すれば、一からのチーム作り。過去を振り返っている余裕はないのである。

 大阪桐蔭は今春、センバツ出場を逃した。昨夏まで4季連続出場。昨年までの10年で、春夏とも甲子園を逃したのは2009、11年のみであり「TOIN」のユニフォームは「甲子園の風物詩」になりつつある。平成の30年だけで、春夏計8度の優勝を誇る「最強チーム」だ。

夏を前に衝撃の発言


 とはいえ、これも外部からの客観的な視点に過ぎない。現場は常に危機感を抱いている。西谷監督は今夏の大阪大会を前にした本誌取材で、衝撃的な発言を残している。

「自分の中では『出ていない感』がある」

 今春、わずか1季、甲子園を逃しただけで、こういう心境になった。周囲から見れば“ぜいたくな悩み”に映るかもしれないが、これが本音なのである。西谷監督は言う。

「それぞれの学年、チームで一生懸命やってきた。このチームを勝たせてやりたい」

 大阪桐蔭のグラウンドへ足を延ばすと、名将の素顔が確認できる。一塁側の本部席横の外にあるホワイトボード。西谷監督はそこに黒マジックで丁寧な文字で練習メニューを書き、選手名が入ったマグネットを組み込んでいく。例えばシート打撃の打順、また、守りのポジション配置について、どう動かしていくのがベストなのかを、熟考を重ねる。試合のための練習。ホワイトボードを凝視しているのが、西谷監督の日常の姿である。

 現場でユニフォームを着ている限り、部員と真正面から歩んでいくのが監督の役割。現役指揮官は甲子園の「監督通算勝利数」とは無縁の場所にいる。極端な話、個人的な数字に興味を持った時点で、生徒と向き合っていないことになる。まさしく、1年勝負――。純粋に甲子園を目指す3年生が、良い思いをして卒業してほしいと願っているのだ。

文=岡本朋祐 写真=宮原和也
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