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延長戦を制して準々決勝へ 佐々木朗希が見せた“涙”に思うこと

 

8回には大台の160キロ


大船渡高は7年ぶりの岩手大会準々決勝進出。投打に活躍した佐々木朗希は試合後、感極まって涙を流している


 気持ちは十分に分かる。しかし、涙を流すのはまだ早いと感じた。

 大船渡高は岩手大会4回戦で第2シード校・盛岡四高を延長12回、4対2で下して、7年ぶりの8強進出を決めた。

「四番・投手」で、2回戦から3試合連続で先発した佐々木朗希(3年)。5回まで双方無得点と「我慢」の投球が続いた。6回表に味方の援護があり2点を先制してもらうが、9回裏に追いつかれ、2対2で延長に突入。

2対2の延長12回表には自らのバットで決勝2ランを放っている


 13回からのタイブレークも見えかけた12回に決着がついた。大船渡高は無死一塁から四番・佐々木が右翼ポール付近に決勝2ラン。その裏、相手の攻撃を三者連続三振で、計21奪三振で完投している。

 さて、注目の球速である。2回戦は147キロ。3回戦は155キロだった最速は、この日は5回に157キロを計測すると、8回には大台の160キロをマークした。佐々木の最速163キロは今年4月6日、高校日本代表第一次候補として参加した国際大会対策研修合宿の紅白戦(ケース打撃)で計測した数字。佐々木が「あこがれの人」として語る、花巻東高・大谷翔平(現エンゼルス)が2012年夏の準決勝(対一関学院高)で計測した“夏”の数字に並んだ。しかも試合会場は同じ、岩手県営野球場である。

 12回にも153キロをマーク。無尽蔵のスタミナを見せたものの試合終盤、肩で息をしているのは明らかだった。変化球も高めに浮くことが多く、握力もなくなっていたように見受けられた。この一戦での消耗度は相当のはずである。

12回、194球を投げ切り、21奪三振。圧巻の投球を見せている


 佐々木が目指すのは「甲子園」のみ。球速には一切、興味を示さない。一つのバロメーターとしては、試合を重ねるごとにスピードアップし今後も注目されるが、さらに勝利に徹した投球に専念することだろう。

 佐々木は夏の県大会前の練習試合から通じて、走者を出して以降の集中力が圧巻。ピンチの場面でギアチェンジするシーンこそが見どころの一つ。岩手大会では「ファンサービス」の一環で、スコアボードに球速表示が映し出される。高校生ながら、スタンドの観衆を楽しませる魅力が佐々木にはある。だが、どこまで体力が残っているか。

延長12回、194球の死闘


この日は今大会最速の160キロを計測。2回戦で147キロ、3回戦で155キロと、試合を重ねるごとにスピードアップしている


 盛岡四高との4回戦後。勝利の校歌を歌い終え、一塁側応援席へ向かう途中で、佐々木は込み上げるものを抑えることができなかった。

 194球の死闘――。純粋な感情が涙という形で出たのである。とはいえ、甲子園出場を決めたわけではない。岩手代表まであと3つ勝たなければいけない。戦いはまだ続くだけに、投球同様に我慢してほしかったのが本音だ。佐々木自身だけの問題ではなく、チームメートも見ている影響力の大きい人物であるからだ。外部からの余計な心配かもしれないが、周囲にも“スキ”を見せてほしくなかったのである。

 試合は待ってくれない。明日(22日)は久慈高(今春の県大会8強)との準々決勝を控える。佐々木は昨秋、盛岡大付高との県大会準決勝で166球の力投の末に惜敗(5対7)。連戦となった翌日、3位決定戦(対専大北上高)での先発を回避している(リードした終盤に救援も逆転を許して敗戦投手)。同秋に初めて背番号1を着け、大会を通じて投げ切ったのも初の経験だった。一冬を越して心身とも成長を遂げている佐々木だが、夏の疲労度は未知数だ。

 大船渡高にとって、今大会初の連戦であり、佐々木の真価が問われる一戦となりそうだ。

写真=藤井勝治
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