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週べ60周年記念

スカウトが球団を訴える?/週ベ回顧

 

 昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

池永正明のインスラ


表紙は巨人王貞治


 今回は『1968年4月15日号』。定価は60円。

 昔は……、と言っても懐古主義をするわけではない。
 投手の球種については、ツーシーム、カットボールも含め、決して近年開発されたものではなく、言葉がなかっただけで、かなり以前から投げる投手はいた。

 フロントドア、バックドアにしてもメジャー発ではない。
 西武東尾修広島北別府学などがスライダーを内外角に使い分けていたシーンをご記憶の方は多いだろう。
 その後、球界で広がり、当時はインスラ、外スラなどと言っていた。

 北別府は、日本シリーズで東尾のピッチングを見て学んだというが、その東尾が見本にしたのは、おそらく池永正明だったのではないか。

 こんな逸話が掲載されていた。

 平和台での二次キャンプ。ブルペンで練習しているのは選手だけではない。審判も代わる代わる捕手の後ろに立ってジャッジの練習をしていた。
 まず打者の立たないところで右打者内角方向へスライダー。ボールからストライクに鋭く切れ込み、審判は「ストライク!」のコールをした。
 しかし次に打者を立たせ、同じような球を投げると、打者は自分に向かってくるような球にのけぞり、審判もつられたかのように「ボール」のコール。
 池永は苦笑いしながら、その審判に言った。
「困るなあ。さっき打者が立っていないときに、あなたがストライクと言った球と同じだよ。コースも高低も同じじゃないか。困るなあ」
 まだ、入団4年目ながら先輩の審判にも遠慮なしだ。
 池永はさらに言う。
「ほかの投手はだいたいスライダーは外角に投げる。僕は内角にも投げる。インコースにもスライダーを投げるのは、いま稲尾(和久)さんと僕の2人ぐらいじゃないかな。審判員はこの球を打者がのけぞるのですっぽ抜けと思うんだな。だから僕の場合は違うんだと念を押したんだ」

 ちなみに北別府は自身のスライダーを「曲がりが小さかった。今ならカットボールでしょうね」と言い、
「今のスライダーは、昔ならズライダーですよ」
 と笑っていた。スに点々です。

 次は、また、もめごとだ。
 中日を解雇された柴田崎雄渉外課長が解雇を不当とし、訴訟を起こすという。

 中日は当時、親会社の中日新聞で与良、大島、小山の御三家の派閥争いがあり、たびたび球団人事にも影響を与えたという。今回は小山武夫が球団社長となったのを契機に与良、大島派の球団内スタッフの首切りが行われ、柴田もその“犠牲者”の一人らしい。

 柴田は戦前の西鉄に入団し、球団解散の際に巨人へ移籍した捕手だったが、ほぼブルペン捕手扱いのまま引退した。
 その後、応召し、復員後は八幡製鉄などで働いていたが、57年に中日にスカウトとして入社。江藤慎一権藤博らの獲得にかかわった。
 やり手ではあったが、柳川事件、高井事件にかかわるなど、やり方が強引で時に暴走もあったという。

 少し時計の針を戻す。
 67年11月、球団社長となった小山は、当時の西沢道夫監督と仲が悪かった杉下茂をヘッドコーチに招こうとしたが、西沢が「杉下だけは勘弁してほしい」と懇願し、話は立ち消えになった。
 しかし、西鉄・田中勉獲得から話がおかしくなり始める。

 田中獲得は西沢も希望し、中日は当初、金銭トレードを申し込んだらしいが、西鉄から交換条件として広野功の名前を出された。それでも是非にとなって一度はトレードが決まりかけたが、慎重派がいて、年末にとん挫した。
 ところが年明け、小山社長が「どうせ西沢は今年限りだ。来年は中日を頼んだよ」と杉下に声をかけた際、「田中を取ってくれたら考えましょう」と言われ、一転トレードが決まったという。

 西沢は自分があと1年ということに関しては覚悟していたようだが、このトレード成立にはさすがに怒った。

「自分にはノーと言いながら、杉下にはイエス、これでは監督のメンツも何もない」
 と退団を決意した。

 その後、反小山派の整理が始まったようだが、柴田は「西沢さんのような話はよくない。私が何も言わず辞めたら次は後輩たちがやられるかもしれない。だから私は会社の反省をうながすのだ」と言っていた。

 では、またあした。
 
<次回に続く>

写真=BBM
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