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【MLB】家庭内暴力問題、記者や球団トップも

 

16年に発覚したチャップマン(ヤンキース)の家庭内暴力に対し厳しく非難していたジ・アスレチックスのケリ記者。今回は自分が同じ罪を犯してしまった。アメリカはこの家庭内暴力に非常に敏感になっている


 カナダのベテラン野球記者ジョナウ・ケリ記者が7月18日、家庭内暴力で逮捕された。3度にわたり奥さんに暴力を働き、一度は「殺すぞ」と脅迫したためだ。保釈されたが、今後奥さんや子供の250メートル以内に近寄れないし、家にあった所持品を10日以内に家から全部運び出さねばならなくなった。

 彼が現在働いている「ジ・アスレチック」は家庭内暴力については絶対に許さない方針で、ケリ記者を停職処分にしている。ケリ記者は16年MLBがヤンキースのアロルディス・チャップマンを家庭内暴力で30日の出場停止処分にしたとき、「正しい処分だが、ここで留まってはいけない。MLBは毅然とした態度を取るべき」と意見を述べていたが、皮肉な状況に置かれている。

 MLBでは最近選手の家庭内暴力と厳しい処分が、ニュースとして際立つ。2018年、ブルージェイズ(現アストロズ)のロベルト・オスナ投手の75試合、同年、カブスのアディソン・ラッセル内野手の40試合。今年もフィリーズのオデュベル・ヘレラ外野手は5月27日に逮捕され、以後試合に出ていなかったが、7月5日今季残り試合も出場停止処分と決まった。

 MLBが家庭内暴力に神経を尖らせ、厳罰を科すようになったのは2014年2月15日の事件が契機である。NFLのRB(ランニング・バック)レイ・ライスがニュージャージー州のカジノでフィアンセの頭を殴って気絶させ、倒れた体をエレベーターから引きずり出す、おぞましいシーンを防犯カメラがとらえており、その映像が全米中で繰り返し繰り返し流れてしまった。

 その上でNFLのコミッショナーが2試合の出場停止という軽い処分にしたことが火に油を注いだ。家庭内暴力はアメリカの深刻な社会問題なのに、NFLはあまりにも無知無関心。スポーツファンでない人も含め、アメリカ中の非難が殺到した。コミッショナーは陳謝し、ライスは解雇されたが、個人の問題では済まされなかった。

 NFLだけでなく、MLBもNBAも家庭内暴力への認識を改め、厳しく対処し、問題解決の方針を明確にすることを求められた。そしてそれは選手だけに限った話ではない。ジャイアンツでは、今年3月ラリー・ベア球団CEOが公園で奥さんと言い合いになり、力づくで携帯をとりあげようとしたところ、イスからひっくり返り、悲鳴を上げながら地面に仰向けに。

 その映像も撮影されており、ベアはMLBから3カ月の業務禁止命令を受けた。ベアはジャイアンツの3度の優勝時の球団の顔であり、MLBでも有数の高名なエグゼクティブだった。6月末に復帰したが、大幅に権限を失っている。

 1987年当時ドジャースのアル・キャンパニスGMがアフリカン・アメリカンが監督やGMになれない理由について「そういう地位につくには必要なものが欠けているのかも」と知性を疑問視する発言をしたために、アメリカ中から非難を浴び、2日以内に辞任に追い込まれた。

 アメリカ社会では、ポリティカルコレクトネス(政治的適正)が求められる。特にプロスポーツ界は社会の規範。今や、オーナーも選手もスタッフも記者も、誰であっても例外ではなくなっている。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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