昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 野村克也と池永正明の確執?
今回は『1968年8月5日号』。定価は60円。
うだるような暑さの東京球場で行われた7月21日の東京─近鉄ダブルヘッダー(初出修正)。
まず、第1試合では東京の
榎本喜八が
川上哲治(
巨人)、
山内一弘(当時広島)に続く史上3人目の2000安打を達成。お祝いムードに包まれる。
「これからは気分を楽にして川上さんの記録(2351安打。当時史上最多)を追いたい。5年かかって2500安打を狙うよ」
と普段は仏頂面が多い榎本も満面の笑顔だった。
だが、第2試合はまったく違った展開となる。
7回裏、審判のジャッジに近鉄の
三原脩監督が猛抗議。セカンドベース上のアウト、セーフの判定だったが、三塁塁審が動かず、一塁塁審も一塁の近くから離れずで、近くに審判がおらず、しかもジャッジが遅れたことへの怒りだった。
三原監督は「ジャッジを改めるか、審判の位置が悪かったことを認めよ」と要求し、拒否されると選手を引き揚げさせた。
その間、一部の近鉄ファンがスタンドの椅子をグラウンドに投げ込んだり、自ら乱入したりと騒ぎが続いたが、審判が三原監督の要求どおりに「セーフ、アウトを遠い位置から判定したのは審判の誤りであった」とマイクで説明。9時半に試合が再開された。
真夏の“狂宴”本番は、8回表だった。負けていた近鉄が2本のホームで9対9と振り出しに戻した後だった。
近鉄の安井が一塁に駆け込んだ後、一塁手の榎本といきなり取っ組み合いを始めた。
ここから両軍入り乱れての大乱闘。ようやく騒ぎが収まったころ、一塁ベース後方で榎本が倒れていた。
どうやらバットで殴られたらしい。そのバットが近鉄の
土井正博のものだったので、東京ベンチから「土井を退場させろ」と罵声が飛んだ。
それを聞いた土井は「違う、違う」とゼスチャーしながら東京ベンチに向かったが、すぐ近鉄の選手に連れ戻された。
試合後、土井は「ウエイティングサークルに置いてあった僕のバットを誰かが持っていただけ。僕は殴っていない」と語った。
この時点で“犯人”は分かっていない。
幸いケガは大したことがなかった。
榎本によれば「安井が3フィート以内を走って体当たりしてきたので注意したら突っかかってきたのだ」。
一方の安井は「榎本さんが突然、つかみかかってきた。僕はセーフになりたい一心で一生懸命走っただけ」。
まさにやぶの中だ。
さらに再開後だった。
次打者だった土井がなんと勝ち越しホームランを打ったのだが、拍手と歓声の中で土井がホームを踏むと、今度は近鉄の阿南が倒れ込んだ。
客席から投げ込まれたウイスキーの空きビンが頭部に当たったという。
試合は11対10で近鉄の勝利で終わったが、後味はかなり悪かった。
7月12日には南海・
野村克也が通算400号本塁打、史上初の到達となる。喜びながらも掲載されていた手記ではこう書いてあった。
「おそらくこの記録も王君(
王貞治)に破られるだろう。彼は若いし、ホームランを打つことに関しては僕以上のバッターだ。しかし、しばらくは僕のこの記録をつくった喜びを味わわせてもらえないだろうか。僕が52本の新記録をマークしたときも、王君はあっさり翌年に55本を打って更新してしまった。もう少し自分の記録を楽しみたかったのに」
とぼやいている。
この野村と西鉄・
池永正明のトラブルの記事もあった。
5月29日の試合で、野村は池永から胸元にまず1球。このときはにらみつけただけだったが、次の1球が同じようなコース、しかもさらに体の近くにきたから、さすがの野村も怒った。
「こいつ、何をさらすんや!」とマウンドに歩み寄りかけたが、西鉄の宮寺捕手に止められ、何とかその場は収まった。
試合後、
「きょうのやつはひどいで。2球も続けてビーンボール投げよった。あんなもん、今のうちに何とかしておかんと、ええ気になって、ほかの連中も迷惑することになる。カッとなったのはワシも反省するけど、きょうはなんぼなんでもあいつが悪いわ」
普段は何を聞いてもボソボソと言うだけだった野村が、この日は熱く語っていた。
対して池永は、
「手が滑っただけ。野村さんはものすごく怒っていたけど、ワシのような後輩のしくじりにあんなにむきになることないと思うよ。ちょっと大人気ないんじゃないかな」
人気商売だが、この言葉にはゆるさを感じる。
今回は少し長くなってきたが、サン
ケイの
ジャクソンのご乱行の記事もあった。「バッターボックスからアル
コールのにおいがする」と言われた遊び人で女性関係もルーズ。
トラブルも多かったので、球団がジャクソンの財布を管理することになったらしいが、日本独自の「つけ」を覚え、遊びが止まらないらしい。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM