目の前のことに全力に取り組むという意思表示
慶大の四番で正捕手・郡司裕也。仙台育英高では3年夏の甲子園で準優勝を遂げ、高校日本代表でプレー。大学でも2度のリーグ優勝、大学日本代表と多くの実績を積んできた
ついに、明日は「運命の日」。
ドラフト会議を前にして慶大の主将・郡司裕也(4年・仙台育英高)は胸中を語る。
「もちろん、個人的な(プロへの)思いもありますが、チームとして優勝したい。(ドラフトが)近づくにつれて、どうでもいいというか、ゲームだけに集中できている。ゲームにのめり込んでいる」
2016年2月。郡司は慶大の練習合流時から「4年後は絶対、プロへ行く」と、その後も目標をぶらさずにきた。仙台育英高では3年夏の甲子園で
佐藤世那(元
オリックス)とバッテリーを組んで準優勝。高校日本代表でもプレーし、慶大では1年秋からレギュラーで2年秋、3年春とリーグ優勝に貢献した。今年7月には大学日本代表に名を連ね、「打てる捕手」としてエリートコースを歩んできた。
申し分のない実績を残してきたが、あくまで「評価」とは周囲が下すもの。ドラフトについて「どうでもいい」とは、興味がないということではなく、目の前のことに全力に取り組むという意思表示。それが成長の証しだ。
慶大は東京六大学リーグ第5週、法大との全勝対決を迎えた。しかし、台風19号により、10月12日(土)、13日(日)は雨天中止。慶大は14日(月)の1回戦、15日(火)の2回戦で連勝して開幕6連勝とした(法大は6勝2敗)。
法大と同じ勝ち点3ながら、勝率で単独首位と立ったのも束の間。中3日、19日(土)からはドラフト1位候補・
森下暢仁(4年・大分商高)を擁する明大戦が控えている。慶大にとって、18年春以来のV奪回を目指す上で大事なカードだが、準備期間は第5週が空き週だった明大よりも明らかに少ない。
「練習ハ不可能ヲ可能ニス」
法大2回戦後、司令塔である捕手・郡司はこう悩みを明かした。
「まだ、明治の分析が何もできていないんです。今日(15日)くらいは早く休みたいんですが、帰ってからすぐミーティングです」
心身とも充実しているから、疲労も感じない。ドラフト当日の17日は木曜日。通常ならば練習後の19時からバッテリーミーティング、20時からは野手ミーティングというスケジュールが組まれる。ところが、ドラフト会議は17時開始。このスタートに合わせて、郡司のほか、慶大からプロ志望届を提出した計6人は別室で待機するという。
つまり、相手校を「丸裸」にする時間を、十分に確保することができない。
「練習ハ不可能ヲ可能ニス」
小泉信三(慶大元塾長)の言葉である。郡司に限らず、限られた環境下で全力を尽くすのが、慶大野球部のポリシー。授業と野球の両立も大変だが、今に始まったことではなく一切、弱音を聞いたこともない。追い込まれれば、追い込まれるほど、力を発揮する。それが「陸の王者」たる所以でもある。
ドラフトの結果とは、自分でコントロールすることはできない。運命の日。郡司は努力の先に、夢の道が通じていると信じて待つ。
文=岡本朋祐 写真=菅原淳