昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 バッキーの愚痴
今回は『1969年11月3日号』。定価は80円。
パ・リーグでは阪急が近鉄を振り切り、3連覇を果たし、5連覇の巨人とまたも日本シリーズで激突する。表紙に近鉄・永淵の写真があるということは、締めきりまでに決まらなかったのだろう(本文より表紙のほうが締め切りは早い)。
阪急は小林オーナー、巨人は正力松太郎氏(元オーナー)がこの年、死去し、ともに「亡きオーナーのために」と燃えていた。
ただ、世間は日本シリーズより、八百長問題にどうしても目が向く。
実は、表面化してはいなかったが、賭け屋の問題は球界内で少し前から話題となっており、オーナー間では「真相を解明しなければ」という話もあったらしい。
報知・読売が西鉄・
永易将之の八百長行為をスクープした際も「ついに出てしまったか、仕方ないな」くらいの受け取り方をする球界関係者が多かったようだ。
おそらく彼らは、しばらくすれば、ほとぼりは冷めると思っていたはずだ。
しかし、西鉄・国広代表があっさり認めてしまったことで、ごまかしようがなくなってしまった。
それだけに「なぜ国広代表はあっさり認めたのか」という批判もあったが、こういうことらしい。以下、国広代表の言葉。
「読売・報知の取材は12球団全部について、球界浄化のための大キャンペーンを張る。ついては、その突破口として西鉄から手をつけたい、という申し入れがあった。西鉄は悪質な野球賭博に泣かされたほうだし、先方にも膨大な資料があるというから思い切ってやってくれると信じて協力したのに……」
このあたりの話から読売・報知の身内である巨人にも火種があり、それを打ち消すために西鉄をスケープゴートにしたという話が、のちのちまでまことしやかに伝えられることになる。
巨人がどうだったのかは知らないが、国広発言、そして永易の失踪というショッキングな事態によって、話が西鉄のみにフォーカスされてしまった面は確かにある。
球界も問題の拡大を避けるかのように収束に向け、動く。
10月13日のパ・リーグ理事会では、証拠不十分として永易を八百長ではなく、「職場放棄」(失踪中だった)として契約違反で処分することを決めた。
うやむやにしたいという本音がダダ漏れか。
ただ、もはや、そう簡単に終わることはない。
10月16日には失踪していた永易に産経の記者がインタビュー。「神に誓ってやっていない」「国広社長を訴えたい」などと言って、大阪の街の雑踏の中に消えたという。
八百長話ばかりではつまらない。
チコのニッポン日記(バルボン手記)では、近鉄・バッキーの引退について赤裸々に書かれていた。
基本的には同情なのだが、書き出しはこうだ。
「
阪神から近鉄にいって辞めて帰ったバッキー。彼はワタシになんのあいさつもせずに帰ってしまった。まったく薄情なヤツや」
相変わらず、いい味を出している。
スタンカ(南海ほか)と並ぶ通算100勝だったバッキーは、外国人最多101勝を挙げるために近鉄に移籍し、101勝を挙げたら盛大なパーティーをしたいと楽しみにしていた。
しかし
三原脩監督は4回まで4対0とか、バッキーに勝利投手のチャンスがあっても平気で交代させた。
バッキーは「もうやる気なんかないんだ。日本はいい国だけど、たった一人の変な監督のために嫌な思い出を残して帰るのが残念や」とバルボンにこぼしていたという。
よく「今どきの若い者は」の永遠の連鎖が言われるが、このときのバルボンも今の言葉と言われてもまったく違和感のないことを言っている。阪神の
カークランドが「日本の投手はコントロールがいいので困る」という言葉に反応したものだ。
「ワタシに言わしたらカークランドは甘いわ。日本の投手がコントロールがいいと言っても、ワタシが来たころの投手のほうがはるかに上だった。ただそのころに比べたら日本の選手はみんな大きい。それだけ力もあるはずだ。だからコントロールが悪いぶんだけは力で補っている」
では、また月曜に。
<次回に続く>
写真=BBM