一昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 九州ライオンズの可能性
今回は『1970年8月3日号』。定価は80円。
もともとの経営難に黒い霧がダメ押しした西鉄が、九州ライオンズになるという報道があった。要は、当初の
広島のように複数の地元企業がバックアップする市民球団だ。
西鉄はこれまで東レ、ダイキン工業、明治製菓、ライオン歯磨きへの球団譲渡のウワサがあったが、すべて失敗に終わっていたらしい。
ただ、九州財界の大御所といえば九州電力と新日本製鉄。九電は通産省を監督官庁に持つ公共企業であり、すでに瓦林会長が「精神的な援助はできるが、経済的には援助できない」と明言していた。
新日鉄は、この年の3月に九州に本拠を置いた八幡製鉄が富士製鉄と合併し誕生したもので、ほかの分野でも八幡時代の地域サービスから手を引き始めており、球団への援助は現実的ではない、と言われていた。
ただ、このままの球団存続は、おそらく不可能。ではどうするか……。
オールスターの話もあった。
第1戦、注目の全パ・
太田幸司(近鉄)は6回裏に登板も四球でピンチを広げ、
王貞治(
巨人)に2点適時打を浴び、降板した。
しかし、大阪に移っての第2戦では8回裏に登板し、2奪三振を含む三者凡退と無難に切り抜けた。太田はそのとき「野村さんのおかげ」と言った。
南海の監督兼任捕手・
野村克也だ。まず交代時、前日、制球難で自滅した太田に向かい、
「こら、ええかっこせんで、どんどんストライクをほうってきたらええんや」
と一言。さらに実際のリードではストレートのサインで球が上ずっているのを感じ、カーブのサインで落ち着かせたという。
野村と言えば、球宴は味方投手(パの他チームの投手)の情報収集と割り切っているような言葉もあるが、“太田人気”が今のパに大事なのは感じていたようだ。
全セでは1戦目に大敗した
川上哲治監督が、第2戦で思い切った手に出た(もともと川上監督は人気のセ、実力のパという言葉を嫌がっていた)。
王貞治のライト、
長嶋茂雄のショートである。
これは全パの先発が地元の右アンダースロー、
皆川睦雄(南海)と読み、打撃好調のファースト、左打者の
遠井吾郎(阪神)を使いたかったことがある。
これで一番から中(
中日)、中塚(大洋)、王と左を並べ、右の長嶋をはさみ、五番に遠井を置いた。長嶋の代わりのサードには、前日ショートで使って大ポカをしたが、長打力はある大洋の
松原誠。これを六番に置いた(こちらは別にサード・長嶋、ショート・松原でもよかった気がするが、どうせならと思ったか)。
結果的には4対1で快勝。川上のバクチ(この言葉、不謹慎か)は吉と出た。
つのだじろうの連載漫画「二軍の旗」は読み切りが続いていた。古臭いところもあるが、時々、「これは!」と思うこともある。
連載小説や漫画の筋を追うにはスペースがないと避けてきたが、たまには紹介しよう(断っておくが、長くなるし、球史に興味がある方にはあまり関係ない)。
2号前の「平家蟹」という回は「自分は2つをやったらどちらも中途半端になってしまう」と、いくらコーチに言われてもバッティングの練習は一切せず、守備だけを磨き続けた平家三郎の話だった。
最後の言葉、「蟹は前進することはない。常に横バイである」は暗いカットもあって印象的だった。
話を戻し、この号は「ライパチ」というタイトル。昔の草野球では「人数合わせ」の意味があった言葉だ。
ライトで八番ということだが、昔の草野球は左打者などめったにいなかったので、ライトには強い打球が飛ぶ可能性はほぼなく、九番は投手だからバッティングも一番打てない選手、ということだ。
ただ、物語の最初は、メジャーから(架空の)日映球団にプロレスラーのような超大物バッターが入団したという話。球団も大いに宣伝し、盛り上げていた。「この導入で、誰がライパチになるのか?」と読者が思えば、つのだじろうの勝ちとなる。
背番号3をもらったドン・レイモンドは、来日した空港でカメラのストロボの嵐にいら立ち、カメラの三脚をへし曲げるなどしたが、これで、その怪力にさらに話題が沸騰。日映の試合は連日満員となった。
試合ではレイモンドは、とにかく振る。豪快に振りまくり、お客さんも喜んだ。
だが、バットに球がまったく当たらない。2カ月くらいして、みんな気づいた。
「こいつは、ただ体がでかくて、力があるだけなんだ」
そこで相手チームのスター選手、東京の長鳥(嶋ではない)が、「完全なライパチだよ」と言う。
もともと集客に苦しんでいた日映。レイモンドの化けの皮がはがれ、ふたたび球場は閑古鳥が鳴き始めた……。
ここまではまあ、普通(?)の話なのだが、レイモンドを獲得した担当者の言葉がいい。彼は球団幹部に「なんであんな奴を獲ったんだ」とののしられた後、こう言っている。少し長いが引用しよう。
「レイモンドは予定どおりの活躍をしたやおまへんか。あいつは大リーガーいうても1試合出ただけで、マイナーでボケーッとしていたライパチや。
それを一流のようにして数千万円かけてとったようにみせかけたが、やつとのホンマの契約はわずか500万程度のもんや。
しかし、あのでかい体を利用して、何人お客はん呼んだと思います?
2カ月で平均2万5000の動員や、うちの過去の実績8000を引いて1万7000人や。
うちの主催ゲームが24試合、それをかけたら、あいつ一人の人気で約40万人でっせ。
お客はん一人あたり平均500円として、なんと2億円!
マスコミ関係にあおり記事を書いてもらうようにつこうた金が500万。出費はわずか1000万や。
どうだす、ソロバンは十分すぎるほど合うとるやおまへんか。
うちはな、大阪の球団でっせ。商売にならんことはせえしめへん」
さらに球団幹部に「なんやて、お客さんをだますようなやりかたや」と言われ、彼はこう答えた。
「アホいうな。結構、あのでくの棒見て、興奮して、外人はダメや言うて、日本人の優越感を満足させとんのとちゃいまっか、みなさん」
最後のセリフは、突然、矛先を読者に向けて締める、この手の漫画の常套手段か。
だが、どうですか、みなさん。
まさにプロレス、いや、太平洋クラブ戦略ではありませんか。もしかして、ライオンズ関係者が読んだのかな。
では、また水曜に。
<次回に続く>
写真=BBM