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【MLB】330万ドル、250万ドル、大谷翔平の値段はどっち?

 

MLBの年俸調停は独特のシステムとなっている。エンゼルスの大谷は、チームとの金額の差がありこのシステムを使って年俸を決めるが、いがみ合いにならないことを祈る


 エンゼルスのペリー・ミナシアンGMが1月15日の電話会見で「大谷(の年俸調停交渉)については公聴会に行くだろう。金額をいくら上乗せするかで合意できなかった」と語った。2020年の年俸は70万ドル。21年の希望額は大谷側が330万ドル、球団側は250万ドルだった。

 MLBの年俸調停はとても変わったシステムだ。エキスパートで、ナショナルズのコンサルタントでもあるエコノミストのマット・スワルツ氏は「日本の人たちは(このシステムを理解するのに)頭が混乱すると思う。基本的にほかのどんなビジネスでも存在しない変わった方式で給料を決めるから」と説明する。

 フリーエージェント交渉の場合、選手を欲しい球団が、その選手が今後どれだけ活躍するか予測して、年数、金額を選手の代理人に提示、交渉を進めていく。その過程で近年軽視されつつあるのは投手なら勝ち星、野手なら打点。チーム力に影響される数字だからだ。そして防御率よりも、守備に左右されないFIPを重視する。つまり期待値の高さがお金になる。

 一方年俸調停では、労働法を専門とする(野球関係者ではない)3人の弁護士が公聴会で、選手側と球団側のそれぞれの言い分を聞き、どちらの希望額が妥当かを選ぶ。そのとき参考にするのは、サービスタイム(メジャーでの在籍年数)が同じで、成績が近い、同じポジションの選手の近年の昇給額である。示してきた実績がお金になる。

 裁くのは法の世界の住人なので、球団側も代理人側も最初から年俸調停交渉のスタッフに弁護士を入れて準備する。そして勝つための審理の進め方を練っておく。大谷については二刀流の価値が争点になるのだろう。大谷のネズ・バレロ代理人は18年序盤に、ベーブ・ルース以来の本格的二刀流で球界にセンセーションを巻き起こし新人王に輝いた部分をアピールする。一人二役で普通の選手の2倍働いたと。

 対象的に球団側は大谷にケガが多かったこと。投げる前日、翌日は休みが必要で試合に出られないこと。6人のローテーションを余儀なくされ、チームは一人余分に先発投手を準備しなければならなかったなどマイナス面を列挙する。通常なら、チームが在籍選手の面前で負の部分を列挙しケチをつけることはあり得ない。

 しかしながら年俸調停の公聴会では勝つことがすべてでチームは容赦しない。結果、出席した選手はとても傷ついてしまい、その後の関係にも悪影響をもたらす。筆者は大谷側も球団側も、今の良好な関係に傷をつけたくはないと考えていると信じる。

 ゆえに泥仕合は避け、2月の公聴会の直前に合意すると考えている。長引いているのは、年俸調停交渉は、選手の年俸をどんどん上げていきたい選手会と、高騰を抑制したいMLB機構側の長年に亘る戦いでもあるからだ。年俸はこれくらいでだとか、このデータを使って説得しろなど、上の組織からの指導が入ってくる。

 とりわけ大谷は二刀流で、前例がないだけに、双方自分たちに有利な例を今回作っておきたい。330万ドルも要求するなんて大谷本人がガメついとか、250万ドルではエンゼルスがケチだとかそういう話ではない。年俸調停は特異なシステムなのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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