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プロ野球回顧録

120キロ台の直球を武器に通算2000奪三振 通算129完投で176勝を挙げた左腕は

 

築き上げた独自のスタイル


抜群の投球術で打者を抑え込んだ星野


 細身の体型から繰り出す直球は常時120キロ台だが、対峙した打者のバットが空を切る。野球の奥深さを知らしめた左腕がNPB史上21位の2041奪三振をマークした星野伸之だ。

 決して球は速くない。だが、技巧派左腕ではなかった。真っ向勝負で直球を投げ込む。それを可能にしたのは、代名詞の70〜80キロ台のスローカーブだった。50キロ以上の球速差があるため、打者は緩急差に翻弄されて120キロ台の直球に振り遅れる。途中まで直球と見間違う軌道の110キロ台のフォークもあったため、3種類の球種で十分だった。

 星野は週刊ベースボールの取材でこう振り返っている。

「阪急時代は山田(山田久志)さん、佐藤(佐藤義則)さん、今井(今井雄太郎)さん、山沖(山沖之彦)さんという頼もしい先輩たちが先発4本柱を形成していました。その後の先発を育てようという思いが、上田(上田利治)監督にはあったんだと思います。いくら打たれようと起用し続けてくれた。2試合連続で1/3回ノックアウトを食らっても、ですよ。先発なのに、1つのアウトしか取れず5、6失点のKO。次はない──。誰でもそう思うはず。当然、投手コーチに呼び出されたときは、二軍落ちを覚悟しました。が、通告されたのは『次も行くから』と先発ローテどおりの登板。本来なら奮起すべきところですが、僕はマウンドに上がるのが怖くて仕方なかった。どこに投げても打たれる感覚しかなくて。だから、とにかく考えました。僕はボールのスピードもない。ならば今まで以上にカーブとの緩急や、高低、内外角を突くコントロールを大事にして打者に向かっていく。それが答えでした」

入団当時の阪急で上田監督によって育てられた


 生き残る道を模索し、独自の投球スタイルを築き上げた。3年目の1986年に9勝を挙げて先発ローテーションに定着すると、翌87年から11年連続2ケタ勝利をマーク。89年に15勝6敗(勝率.714)、96年に13勝5敗(勝率.722)と最高勝率のタイトルを2度獲得している。細身の体型だがスタミナも抜群だった。毎年のように180〜190イニングを投げて大きな故障もしない、肩、ヒジに負担のかからない理にかなった投げ方だったのだろう。高校時代はオーソドックスなオーバースローだったが、89年ごろから徐々にテークバックが小さくなり、投げる直前まで左手を体の横に隠し、腕の出所が見づらいフォームに変化した。打者はタイミングが合わせづらい上に直球、カーブ、フォークとどの球種も投球フォームが変わらないため、自分の間でスイングができない。

「直球は誰よりも速く感じる」


 清原和博中村紀洋らパ・リーグの強打者たちが「星野さんの直球は誰よりも速く感じる」と手を焼いた。メジャーで1000試合出場し、南海、ダイエーでプレーしたトニー・バナザードも「顔を見るのも嫌」と顔をしかめた。スイッチヒッターだったことから、左右で打席に立ったが対応できない。カーブを3球連続で空振りした直後、イラ立ちが頂点に達してバットを自分の膝でへし折ったことも。お手上げポーズで打席に入り、バットを逆さまに構えたこともあった。

 星野は現役時代の印象深い思い出について、以下のように語っている。

「成果は何といっても95、96年のリーグ連覇、それも阪神・淡路大震災が発生した中での優勝。95年は神戸で胴上げできず、翌96年はイチローのサヨナラ打で念願の神戸での胴上げ。神戸で日本一にもなり、本当にドラマチックな2年間でした。僕もうれし過ぎて、96年のリーグVのとき、イチローがサヨナラ打を放った瞬間に、目の前の人を押しのけて、グラウンドに駆け出しましたから。でも、後から聞いたのですが、その押しのけた人は仰木彬監督だったそうで……。『仰木監督に何してるんだ』なんて、周りから笑われてしまったほど、かなり興奮していましたね」

最後は阪神でユニフォームを脱いだ


 99年オフに阪神にFA移籍し、02年限りで現役引退。プロ19年間をまっとうして通算427試合登板、176勝140敗2セーブ、防御率3.64。通算129完投は同時代に「平成の大エース」として活躍した巨人斎藤雅樹より多い。球が速くなくても三振は奪えるし、白星も積み重ねられる。星野の投球スタイルを参考にした選手も多かった。「異色の本格派左腕」が残した功績は数字では計り知れない。

写真=BBM
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