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プロ野球回顧録

外国人史上初の6年連続3割 阪神ファンを熱狂させ、天敵となった安打製造機は

 

出塁に長けた安打製造機


阪神で好打者として活躍したオマリー


「阪神タイガースファンはイチバンやー!」

 お立ち台での決めゼリフが頼もしかった助っ人外国人がいた。来日から6年連続打率3割、4年連続最高出塁と選球眼に優れた安打製造機で、阪神、ヤクルトでプレーしたトーマス・オマリーだ。

 オマリーが阪神に加入したのは1991年。メジャー9年間で6球団を渡り歩き、通算打率.256、13本塁打とパッとした成績を残せず、年俸4000万円で入団した。同時期に加入したマーベル・ウインのほうがメジャーでの実績が上だったため、年俸も1億4000万円と期待が高かった。

 だが、ウインが91年に打率.230、13本塁打と1年限りで退団したのに対し、オマリーは卓越したミート能力で130試合フル出場し、打率.307、21本塁打、81打点の好成績をマークする。92年も打率.325、15本塁打で最高出塁率(.460)、三塁でゴールデン・グラブ賞を獲得。亀山努新庄剛志ら若手も台頭し、前年の最下位から一転して熾烈な優勝争いを繰り広げて2位に躍進した。翌93年は打率.329で首位打者と最高出塁率(.427)に加え、オールスター第2戦でMVPに輝いた。

 オマリーは、週刊ベースボールでパンチョ伊東のインタビューシリーズ「助っ人見聞録」で、甲子園の大声援についてこのように語っている。

「はじめは信じられなかったなあ。こんなに熱狂的に声援を送ってくれる人たちは世界中を探したってほかにはいないよ。とにかく我が阪神に対して、いつまでも忠実に応援してくれるし、熱心だし、第一、これほどエネルギッシュな応援なんてあるわけないじゃないか」

 愛する阪神ファンのために打ち続けた。94年も打率.314、15本塁打で3年連続の最高出塁率(.429)と結果を残したが、2億円を越える高額年俸がネックとなり、金銭トレードでオリックスへの譲渡が決定的となる。だが、オマリーはこのプランを拒否した。配球を読んで打つ頭脳明晰な助っ人は「オレにはセ各球団の投手のクセ熟知という宝物がある。試合のために移動していく町にも慣れている。これをムダにする手はないだろう」とセ・リーグでのプレーを熱望。年俸1億7500万円でヤクルトと契約を結ぶ。結果的に、この放出が阪神には大きな痛手となった。

「ID野球」を提唱する野村克也監督との出会いをオマリーは望んでいた。

「ボクはね、阪神にいるころから、野村さんを尊敬していたんだ。野球は9人で戦うけど、我がスワローズは野村さんを含めて10人で戦っているから有利なんだよね。いつもよく話をして冗談も言ってくるし、時にはスランプから抜け出すヒントもアドバイスしてくれるんだ」

ヤクルトでも本領発揮


ヤクルト移籍1年目の95年、日本シリーズMVPに輝いた


 狭い神宮球場で打撃スタイルを変え、3打席連続本塁打放つなど序盤から大暴れ。阪神は痛いしっぺ返しを食った。4月末に甲子園でオマリーに3試合連続アーチを浴びる。ヤクルトはリーグ優勝を飾り、オマリーも打率.302、31本塁打、87打点で4度目の最高出塁率(.429)とセ・リーグMVPを獲得。「それにしても、ボクは去年、阪神を解雇されて、今年ヤクルトに拾われた。その年に阪神に20勝6敗と大きく勝ち越して優勝できた……。なんか映画のシナリオみたいじゃないか。そしてボクが映画の主人公。やっぱり優勝はいいもんだよね」と振り返る。

 オリックスとの日本シリーズでも小林宏との14球の名勝負が話題になるなど、17打数9安打、打率.529の大暴れで日本一に貢献。シーズンとダブルMVPの快挙を達成した。93年のオールスターMVPを含めて3つでMVPを獲得する偉業はオマリーが外国人で唯一だ。

 翌96年も打率.315、18本塁打、97打点の好成績を残すが、高年俸と36歳の年齢がネックとなり、同年限りで退団。米国に帰国後、レンジャーズのキャンプに招待選手として参加したが解雇され、現役引退した。来日通算6年間で742試合出場、打率.315、123本塁打、488打点。引退後は2002年に阪神の臨時打撃コーチ、駐米スカウトなどを務めると17年に米国に戻り、高校のソフトボールチームでコーチを務めた。

 昨年4月に新型コロナウイルスの感染拡大で開幕が延期になった際は、日本プロ野球外国人OB選手会のツイッターを通じてメッセージ動画を寄せた。阪神のTシャツを着用し、「コロナウイルスが全世界で猛威を振るっているね。周囲の人と距離を保って、手洗いうがいをしてね。お家で過ごして、みんなでこの危機を乗り切りましょう。強く、安全に、健康で。アリガト! ガンバッテ!」とエールを送ると、「阪神タイガースファンはイチバンやー!」と決めゼリフで締めくくった。ヤクルト時代には天敵として立ちはだかったが、今も阪神ファンに愛される助っ人だ。

写真=BBM
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