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ギリギリのタイミングでのタッチアップ。何か良いテクニックは?【後編】/元中日・井端弘和に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は現役時代、たびたび好走塁を披露した元中日ほかの井端弘和氏だ。

Q.中学で野球部の指導を手伝っている者です。タッチアップの際の、ランナーのテクニックについて質問です。タイミング的にギリギリのフライの場合、何かスタートを少しでも早く切れるテクニック、ホームを早く駆け抜けるコツなどはありますか。また、2006年のWBCのアメリカ戦で、西岡剛選手がタッチアップ時に離塁が早かった、とアウトになったプレーがありましたが、実はスタートの高等テクニックだった、と報道で見ました。どういうことでしょうか。(大阪府・35歳)


中日時代の井端氏の走塁


A.徒競走もタッチアップも同じで重要なのは「ヨーイ」。つまり「用意」で「準備」動作です

 前編の続きです。少年野球の選手たちにタッチアップのスタートについて教える場合、徒競走の「位置について、ヨーイ、ドン」を思い浮かべるよう説明していると解説しました。徒競走もタッチアップも一定の場所から、基本的には、静止した状態でスタートする共通項があるためです。

 徒競走は「ドン」の合図でスムーズにスタートを切れるように重心を落としたり、手を振りやすい位置で構えたりと、“準備”を整え、一歩目からスムーズに足が出て、トップスピードに乗っていけるようにしているわけですが、タッチアップもこれと同じです。特に重要なのが「ヨーイ」で、つまり「用意」で、「準備」動作です。

 タッチアップの場合、基本は左足ウラをベースの側面に着けた状態で捕球を待たなければいけません。左足は固定され、かなり制限はありますが、その制限の中であれば、体を動かしてはいけない決まりはなく、極端な話、ベースに左足さえ着けておけば、何をしてもいいのです。最も基本的なテクニックとしては、相手の捕球までの動作に合わせてヒザをかがめて重心を落とし、走り出しやすい低い体勢を作ることです。盗塁のときも、セカンドリードから走り出すときも、突っ立ったままでは走り出しませんよね? 個人差はあるとはいえ、ヒザを柔らかく使って、もっとも走り出しやすい体勢をとるようにしましょう。質問は「タイミング的にギリギリのフライ」ですから、定位置か朝目で外野手が余裕をもって捕球体勢に入っているものでしょうから、相手の動きにはシンクロさせやすいと思います。

イラスト=横山英史


 注意点があるとすれば、最初から低い体勢を作って“待ってしまう”ことです。これだと体が固まってしまう選手も多く、突っ立った状態で待つのと大差なくなってしまいます。ググーッっと力をためるように重心を落とし、捕球と同時にこれを爆発させるように一歩目を踏み出していきます。

 06年のWBCの西岡選手のタッチアップもこれの応用編です。当時の映像を見てもらえれば分かりますが、浅めのレフトフライに合わせてググーっと重心を落とします。ここで左足をベースに着けたまま、捕球直前に上体だけをホーム方向に振ることで(高等テクニックです。目を切った直後にレフトが捕球します)、勢いをつけて一歩目を切ったわけですが、このときの(セーフ判定を覆した)球審は上半身の動きに惑わされたのでしょう。不運でしたが、このようなリスクもあるということです。

<「完」>

●井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。

『週刊ベースボール』2021年2月15&22日号(2月3日発売)より

写真=BBM
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