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背番号物語

【背番号物語】大下弘「#3」電撃移籍も背番号は変わらず。「驚天動地」と表現された長距離砲の草分け

 

“虹のアーチ”と“青バット”と


西鉄・大下弘


 巨人長嶋茂雄が、広島では衣笠祥雄が永久欠番とした「3」。長嶋は通算444本塁打、衣笠は長嶋を超える通算504本塁打を残した長距離砲だった。“ミスター・ジャイアンツ”にとどまらず、“ミスター・プロ野球”と呼ばれた長嶋の存在感は数字よりも大きなもので、「3」を自らの象徴としただけでなく、多くの後輩たちがあこがれる背番号へと昇華させたのは長嶋と言っていいだろう。チームこそ違うものの、衣笠も長嶋“後継者”といえるかもしれない。

 その後の「3」にはチームを問わず強打者、長距離砲が並んでいる。ただ「3」を、自らを象徴するナンバーにしたのも、「3」の長距離砲も、長嶋が最初ではない。プロ野球で最初の三冠王となった巨人の中島治康については、巨人の「3」を紹介した際に詳しいが、中島も強打者ではあったものの、用具が粗悪だったこともあって、このときは4本塁打と、長距離砲というには数字が小さい。この“常識”が一変したのは戦後だ。

 1945年、終戦。中断していたプロ野球は、すぐに再開へ向けて動き出し、11月の東西対抗戦で復活を果たす。このとき新チームとして参加したのがセネタース(現在の日本ハム)だったが、その一員としてデビュー、12月1日の第3戦(西宮)で右翼席に飛び込む本塁打を放ったのが大下弘だった。翌46年にはペナントレースが再開。大下は全104試合に出場して20本塁打を放ち、本塁打王に輝いている。それまでは最多でもシーズン10本塁打だった当時。この2021年は60本塁打が最多だから、いきなりシーズン120本塁打の新人が登場したことを想像すれば、当時の衝撃に近づけるはずだ。各地に戦争の爪痕が色濃く残っていた当時、美しい弧を描いて”虹のアーチ”と呼ばれた大下の本塁打は人々の希望となっていく。その打棒を「驚天動地」と表現された大下。そんな大下の背番号こそ「3」だった。

 以降、本塁打はプロ野球の華となり、チームが東急となった翌47年、“青バット”を相棒とした大下は17本塁打で2年連続の本塁打王、打率.315で首位打者にも輝く。各チームの強打者たちが大下の打撃を研究したこともあり、リーグ本塁打も46年は211本塁打、47年は240本塁打だったが、48年には391本塁打、49年は874本塁打と急増。過熱していく“ホームラン・ブーム”の一方で大下は打撃の安定感を追及するようになっていったが、それでも49年には自己最多の38本塁打。2リーグ制となった50年には打率.339で2度目の首位打者、翌51年には26本塁打で本塁打王、打率.383で首位打者と、2度目の打撃2冠に輝いている。だが、そのオフ、球団と衝突した大下は、移籍を志願。近鉄、毎日(現在のロッテ)、西鉄(現在の西武)などによる争奪戦は激しく、政治家までが介入する騒動へと発展する。大下は忽然と姿を消した。

黄金時代の礎に


 秋田に隠れていた大下の移籍が決まったのは翌52年、すでにペナントレースが開幕していた4月11日のこと。新天地は三原脩監督が自ら獲得に動いた西鉄だった。激動のオフシーズンだったが、大下の背番号だけは変わらず。古巣では初代の「3」だった大下は、西鉄では「3」の3代目となった。ちなみに、この移籍では、最終的には15球団から勝ち星を挙げることになる右腕の緒方俊明と、右スラッガーの深見安博が西鉄から東急へ。すでに開幕から西鉄で2本塁打を放っていた深見は東急で23本塁打を加え、シーズン25本塁打で本塁打王に。2チームにまたがる本塁打王はプロ野球で最初のことであり、現時点では最後だ。

 その後は打撃タイトルから遠ざかった大下だが、それでも安定した打撃でチームに貢献。54年には22本塁打、88打点、打率.321の活躍で西鉄を初のリーグ優勝へと導き、初のMVPに輝いている。翌55年こそ南海(現在のソフトバンク)に王座を奪い返されたものの、続く56年からは西鉄がリーグ3連覇。日本シリーズでも3年連続で巨人を下し、大下は57年の日本シリーズMVPに選ばれている。

 59年オフに現役を引退した大下は、68年に東映となっていた古巣へ監督として復帰。ふたたび「3」を背負い、門限なし、サインなし、罰金なしの”三無主義”を掲げたが、シーズン途中に退任した。

【大下弘】背番号の変遷
#3(セネタース・東急・急映・東急1946〜52、68)
#3(西鉄1952〜59)

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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