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[MLB] ドラフトで全員投手指名、エンゼルスの賭けは実るのか

 

100マイル超えのシンカーを投げるバックマンを1巡指名したエンゼルス。今季は指名20人全員投手という珍事に。現状の中継ぎ崩壊状態を来季以降立て直していけるのか


 現地時間7月21日終了時点でエンゼルス投手陣の防御率は4.92の30球団中25位。370与四球はワースト3位。ポストシーズン出場を目指してはいるが、46勝48敗と厳しい戦いが続く。当たり前の話だが、良い投手がいないと勝てない。

 オールスターゲームで大谷翔平が先発したが、同球団の投手が球宴で投げるのは2012年のジェレッド・ウィーバー以来だった。そこで今年オールスター期間中に行われたドラフトでは20人すべて投手を指名した。右が14人、左が6人。これはMLBドラフト史上初の珍事と見なしても良い。20年のマイアミ・マーリンズも投手のみだったが、そのときは新型コロナでドラフトが5巡までしかなかった。

 エンゼルスのアマチュアスカウト部長マット・スワンソンは「投手の補強が最優先。とはいえ投手だけと最初から決めていたわけではない。途中から笑ってしまいそうになった。さて次も行くかと」。最初に指名したのは一巡全体9番目のマイアミ大(オハイオ州)右腕サム・バックマン、21歳だった。今季の成績は12試合に先発し4勝4敗、防御率1.81。59回2/3を投げ93 個の三振を奪い、被打率は.147。最大の武器は最速102マイル(約164.1キロ)の高速シンカーで、スライダーとチェンジアップも良く、三振をたくさん奪う。

 スワンソン部長は「速い球を投げられるし、ゴロもたくさん打たせられる。パワーピッチャーだけど、技巧派の部分もあり、良い感じでブレンドされている」と説明した。さっそく384万7500ドルの契約金で合意している。

 MLBではドラフトした選手がその年にメジャー・デビューすることはまれだが、他球団のスカウトはリリーフ投手として今季中にも出てくるのではと予想する。本人も「現実に起こる可能性があり、やれると思う」と語っている。メジャーのドラフトは通常、3、4年先を考えて指名する。だがエンゼルスはやむにやまれず即戦力を狙ったとしか思えない。

 というのは20人のうち大学生が19人で、ほとんどが4年生だからだ。スワンソン部長は「去年ドラフトが5巡まで、だったために、プロ入りせずに大学に残った投手が今年はたくさんいて、良い投手が多かった」と言う。ちなみに大学4年生相手だと、MLB球団は交渉で有利な立場に立てる。

 3年生だと、もう一年大学に残るかもと、アドバイザー(代理人)が駆け引きをし、契約金が釣り上がってしまうが、4年生だと、独立リーグに行くくらいしかほかに選択肢がないため、多少少なめでも受け入れてくれる。バックマンも一巡9番目指名だと、想定される契約金は494万9100ドルだったが、100万ドル以上少ない額でサインした。

 エンゼルスが今回のドラフトで10巡までに使える契約金総額は929万5900ドルだが、節約できた分は11巡以降の選手を説得するのに使うのである。「20人全員とサインしたい」とスカウト部長。ちなみにこういった偏った指名をすると、高卒のダイヤモンドの原石を取り逃すことになるリスクはあるが、あえてエンゼルスはギャンブルに出て、即戦力候補をかき集めたのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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