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ファーストは誰でも守れる?「内野全体の守備力に影響を及ぼす重要な存在です」/元巨人・篠塚和典に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は内野守備編。回答者は現役時代、巧みな二塁守備で鳴らした、元巨人篠塚和典氏だ。

Q.ファーストは誰でも守れると思われがちですが、本当にそうなのでしょうか。守備においてどんな点がポイントになるのでしょうか。(千葉県・匿名希望・16歳)


ファーストにはかつての王のように、内野陣に安心感を与える存在であることが求められる


A.ファーストにまず求められるのは「安心感」です

 世間で言われるような「ファーストは誰がやっても同じ」ということはまったくありません。特に内野陣にとってはファーストの存在はものすごく大きなものです。ゴロを処理するときに多くは、最後にファーストへ投げてしっかり捕球してもらわなければプレーが完結しないわけですから、当然です。

 まず、守備においてファーストもほかの内野手と同じように打球を処理しなければなりません。サードと同じように打者との距離が近いため、速い打球に対応できる俊敏性が求められます。さらにファーストは一塁キャンバスに入らなければいけないので、守備位置を下げることもできません。

 その上でファーストに求められる最大の条件は、ほかの内野陣に「どんなボールでも捕ってくれる」という安心感を与えることです。内野手は「ショートバウンドや多少送球がそれてもファーストが捕ってくれる」と思うことができれば、のびのびとプレーできます。どのポジションでも言えることですが、ファーストは特に捕球の面で「あいつが捕れなかったのなら仕方がない」と思ってもらえるようになること。「どこにでも投げてこい」と内野陣に自分から声を掛けることができるだけの自信を持つことが重要になります。

 私が巨人に入団し、試合に出られるようになったときのファーストは王貞治さんでした。王さんにボールを投げるという緊張が先に立ち、王さんに「シノ、キャッチボールやろう」と言われても、思うように腕を振れません。「しっかりほうってこい!」と声を掛けられ「はい」と返事はするのですが、いざ守備に就くとしっかり送球ができなかったのです。

 王さんも若い選手が自分に送球することに気を遣っていることは分かっていたのでしょう。あらためて「思い切りほうってこい、地面にたたきつけるようにほうってこい」と言ってくれたのです。「自分がベースに就いて両サイド、ワンバウンド、届くところは全部捕ってやる。ゲッツーでもワンバウンドくらいでいいんだ。ツーバウンドになってもいいから速いボールでほうってこい。地面にたたきつけるように腕を振れ。ただし高いボールはちょっと難しいぞ」。そう言われた私はようやく安心して、しっかり強い送球をすることができるようになったのです。

 もちろん王さんは、それを実行するだけの巧みなハンドリングと高い守備力を持っていました。山本功児さん、中畑清さんや駒田徳広なども、体が大きくファーストの名手と言われる選手でしたから、私は恵まれていましたね。常に投げやすかったですから。

 このようにファーストというのは、内野陣全体に安心感を与える存在でなければならないということ。内野全体の守備力に、大きな影響を及ぼす重要な存在であるということです。

●篠塚和典(しのづか・かずのり)
1957年7月16日生まれ。右投左打。銚子商高から76年ドラフト1位で巨人入団。2度の首位打者に輝く。94年限りで引退。現役生活19年の通算成績は1651試合出場、打率.304、92本塁打、628打点、55盗塁

『週刊ベースボール』2022年9月5日号(8月24日発売)より

写真=BBM
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