週刊ベースボールONLINE

大学野球リポート

東大・井澤駿介が慶大1回戦で勝利投手に。プロ入りを目指す右腕の成長を証明する2つのシーンとは

 

指揮官の「夢」発言


東大・井澤駿介は慶大1回戦[9月17日]を6回2失点に抑え、リーグ戦通算2勝目を挙げた


 東京六大学秋季リーグ戦開幕を2日後に控えた9月8日、東京都内で監督、主将、指名選手1人が報道陣の記者会見に応じた。

 就任3年目の東大・井手峻監督はラストシーズンに挑む4年生右腕・井澤駿介(4年・札幌南高)を前にして、強い口調でこう言った。

「この3年で2つほど勝ちましたが最後、井澤が放っている。井澤が先発して勝ってもらいたい。悲願です!!」

 井澤は井手監督が就任した2020年春、つまり、2年春から主戦を任されている。「3年間で2勝」とは、昨春の法大2回戦と昨秋の立大2回戦だ。井澤はいずれも、1回戦で敗戦投手、2回戦を終盤からの好救援で試合を締めている。昨秋の立大2回戦は、神宮デビューから20試合目でのリーグ戦初勝利だった。

 井手監督は、エースが1回戦で勝利投手となるのが、チームの士気を高める上で理想の展開と考えていた。

 9月17日の慶大1回戦。井澤は6回2失点の好投で、7回以降は松岡由機(3年・駒場東邦高)が1失点でしのぎ、4対3で逃げ切った。井澤は通算2勝目を手にしている。

 試合後、井手監督は「先発でしっかりピッチングしてもらうのが夢だった。ようやく果たせました」と手放しで喜んだ。

 指揮官の「夢」発言を受け、井澤はリアクションしてきた。もちろん、冗談交じりである。

「僕の夢ではないので……(苦笑)。チームの勝利に貢献する上で、先発投手での勝利が目標でした」

 144キロ右腕・井澤は9月8日にプロ志望届を提出。開幕カードの明大1回戦(9月10日)でも7回途中3失点と力投している(1回戦は3対3の引き分け、東大は2、3回戦で連敗して、勝ち点を落とした)。

 この秋、好調をキープしている理由は何か。

「四球から崩れることがなくなった。ピンチをつくっても最少失点。ゲームをつくることに関しては、安定してきた。能力が若干、上がって投球の幅が広がったのはあります」

キーワードは「開き直り」


井澤は1点リードの6回裏二死満塁のピンチを脱した。「ヨッシャー!! という内容ではない」と、淡々と三塁ベンチへと戻った


 井澤の成長を証明する2つのシーンがあった。キーワードは「開き直り」である。

 東大が1点を先制した直後の1回裏。3四球で一死満塁から二犠飛で同点に追いつかれたが、後続を抑え、1失点でしのいだ。

「粘られての3四球。コントロールが不安、というよりは、向こうのほうが、能力が上だった、と。実力自体も相手が上。そこを自分が強気で攻めていけるかを考えていました」

 2つ目のシーンは1点リードした6回裏。安打、犠打、中飛で二塁走者がタッチアップして三進。二死三塁で、一本が出れば追いつかれるという、最大の局面を迎えた。ここで慶大は代打の切り札・北村謙介(4年・東筑高)を起用。井澤はボール球4つで、一塁へ歩かせた。続く一番で主将・下山悠介(4年・慶應義塾高)に対しても、ストライクが入らない。2者連続でのストレートの四球で二死満塁。傍から見れば「大丈夫か?」と思わせる投球内容も、井澤は冷静だった。

「失点をしないことを優先にしました。最悪ですけど、3人で一つのアウトを取る、と。悔いの残る四球というよりも、次のバッターで抑えることに集中していました」

 傷口を広げるリスクもあったが、想定内の四球だった。二番・朝日晴人(4年・彦根東高)を捕邪飛に抑え、この窮地を脱した。井澤はこの回で降板。充実の109球を支えたのは、最も得意とするカットボールであった。

 慶大・堀井哲也監督は「井澤君はこの秋、球の力が強くなった。春まではカットを気にしておけばよかったが、ストレートとの2つの球種でうまく配球してくる」と目を細めた。四番で右越えソロ本塁打を放った萩尾匡也(4年・文徳高)も「ホームランはカットボールか真っすぐ。外を待って、右中間に返していくイメージの打撃ができた。(カットボールは)右は振らされ、左は詰まらされる。割り切っていかないと、ボールを見ていくとドツボにはまる」と、警戒心を口にした。

 東京六大学は「2勝先勝」の勝ち点制である。井手監督はかつて「六大学は対抗戦。対抗戦に勝つとは、勝ち点を取ること」と語っていた。つまり、東大は1回戦で先勝したに過ぎない。2回戦以降で勝利し、勝ち点を奪取してこそ、評価されるのだ。1998年春から続く最下位脱出を掲げる今秋、チームとして目指すは5勝。井澤は3勝を目安にしている。

「1カードで2勝をしたことがないので、これを自信にして、この勢いを、2回戦以降につなげられれば。それが僕の夢でもあるので、次も頑張ります」

 シーズン前に東大の主将・松岡泰希(4年・東京都市大付高)は「2校から連勝での勝ち点2が目標です。現実問題、3回戦になると頭数もいませんし、苦戦は必至なので、東大としては、連勝しかないと思っています」と話していた。井澤をどのタイミングで投入するのか。対慶大戦の命運をかけたポイントだ

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング