週刊ベースボールONLINE

侍ジャパンU-23代表

「スモール・ベースボール」と決別 “最先端の野球”でW杯優勝の侍ジャパンU-23代表

 

選手たちに「チャレンジ」させた石井監督


U-23W杯[台湾]で優勝した侍ジャパンU-23代表は10月24日に帰国した。後列左から時計回りで中村迅主将[NTT東日本]、石井章夫監督、首位打者・大西蓮[JR東日本東北]、最優秀投手・富田蓮[三菱自動車岡崎]、MVP・権田琉成[TDK]


 世界一へのキーワードは「チャレンジ」だった。侍ジャパンU-23代表はU-23W杯(台湾)で3大会ぶり2度目の優勝を飾った。

 今回のチームは、オール社会人で編成。短期間で築き上げた選手の一体感に加えて、スタッフとの意志疎通も勝因の一つと言える。

 主将を務めたNTT東日本・中村迅(法大)は言う。

「国内合宿で集合した際から、石井(章夫)監督は『今回の日本代表は、こういう野球をしよう!』と明確に示してくれた。選手全員がその方針を目指した結果が、世界一につながりました」

 選手選考から意図があった。国際試合で結果を残すには、何が必要なのか。従来のニッポン野球からの脱却だった。かねてから、日本の投手力は世界最高峰。守りもしっかりしている。足りないのは、攻撃力だった。

 いくら失点を抑えても、得点ができなければ、勝つことはできない。2017年2月から社会人日本代表を指揮する石井監督は、多くの国際舞台を経験する中で、一つの結論に行き着いた。

「外野へ打球を飛ばす」
「打ち勝つ野球」
「1試合10得点」

 つまり、これまでの小技や機動力を駆使した「スモール・ベースボール」と決別し、長打を求めた。選考合宿では「見える化」を実践し、打球速度、打球角度、スイングスピードなどを測定。外国人の速球、ムービングボールなどに対応できる選手をセレクトした。

 攻撃陣がスピードに力負けすることがなかったのも、石井監督が恐れることなく、選手たちに「チャレンジ」させたからだ。

「日本と言えば、堅実な野球。それでは、世界では勝てない。選手たちにはミスをしていいから、挑んでくれ、と言い続けてきました。仮にミスが出れば、チーム全体でカバーしていけばいい」。結果として今大会、致命的なミスは一つも出なかったという。

見逃せない有能なコーチングスタッフ


「自己犠牲」とは、都合の良い言葉だか、選手を萎縮させるリスクも隣り合わせ。石井監督は、選手個々のパフォーマンスを最大限に発揮させることを優先させたことが、吉と出た。打者は自分のスイングで、パワーボールに対応。投手陣も得意な球種を、自信を持って投げ込む。攻守とも準備してきたポテンシャルを、そのまま出すことができたのだ。

「勝つことができ、選手たちは喜ぶ。技術を伸ばすこともできた」(石井監督)

「世界一」の結果を示すことができたのは、専門性に富んだ有能なコーチングスタッフも見逃せない。石井監督はここを、強調する。

「技術スタッフ(内川義久ヘッドコーチ、加藤徹コーチ、甲元訓コーチ)だけでなく、メディカル系のドクター(可知芳則氏)、フィジカル系のトレーナー(佐藤照己氏)、心理系のメンタルコーチ(布施努氏)、数値を基にコンディションを見極めることができたクオリティコントロール(島孝明氏)。彼らの貢献度は絶大。私は何もしていません。このシステムでチームづくりができたことが、今大会の一番の収穫です。侍ジャパンの全世代において、そういう視点で取り組む必要がある」

 日本古来の根性野球は、国際試合では通用しない。科学的根拠に基づいて動くのが、最先端の野球であることを証明した。石井監督が示した成功体験は、侍ジャパンとして共有すべき学びが、たくさんある。社会人野球界として発信するノウハウに、各カテゴリーの関係者は、真摯に耳を傾けるべきだ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング