圧巻の集中力
3月10日の韓国戦、東京ドームに「タツジ」
コールが巻き起こっていた。ミドルネームから「タツジ」「たっちゃん」と呼ばれる、ヌートバー(カージナルス)だ。彼は、わずか2試合で、完全に日本の野球ファンの心をつかんでしまった。
中国戦、韓国戦とも2安打ずつと打撃好調。果敢なセンター守備、全力での走塁も光り、まだ2戦を終えたばかりだが、第1ラウンドの日本のMVPと言ってもいいかもしれない。
ただ……申し訳ないが、大会前、そこまでの期待はなかった。
初の日系人選手の招へいは、アイデアマンの
栗山英樹監督らしいし、チームにもたらすプラス効果はあると思った。ただ、売り出し中の成長株というのは分かっていたが、カージナルスでの2022年の14本塁打、打率.228の成績を見て、ジョーカー的存在を期待しているのかなと思っていた。
しかし、ふたを開けたら脇役どころか攻守の主役だ。
目につくのは、打撃、守備、走塁すべてにおける集中力だ。表情豊かに楽しそうに野球をやっているのもいい。
打撃では選球眼。韓国戦では3回裏、低めのスライダーを見極めたあと、次の甘い球をセンター前に運んだ。難しい球に手を出さず、甘い球を逃さないのは好打者の条件でもある。
あとで2022年の出塁率が.340と高かったことを知ったが、長打はないものの打球スピードが速く、思い切りがよく、選球眼もいいとなれば、まさに一番打者として適任だ。
守備でも連日、ファインプレーを見せているが、重圧がかかるゲームの中でも果敢さを失わず、球際の強さも頼もしい。
好調を維持する二番・
近藤健介(
ソフトバンク)も出塁率は高く、いいコンビになっている。三番・
大谷翔平(エンゼルス)と栗山野球を知る男たちが続き、五番の
吉田正尚(レッドソックス)とともに打線を活性化させている。
日本野球にピッタリな選手だと思うし、それを見つけ出し、一番打者にはめた栗山監督の眼力を称賛したい。