3月29日、『よみがえる1958年-69年のプロ野球』第1弾、1959年編が発売された。その中の記事を時々掲載します。

千葉の猛牛のニックネームからバファローに

　のちにこの3年を振り返ると、千葉茂は「あり得ないことの連続だった。ワシが巨人で20年間やってきたことがすべてひっくり返された」と振り返る。

　球団創設以来、最高順位が1954年の4位と低迷が続いていた近鉄パールス。前年の58年は29勝97敗4分けで最下位に終わり、パ・リーグのお荷物球団とも言われていた。

　要因の1つに親会社の無関心がある。近鉄グループ自体の財力は他球団を圧するものがあり、佐伯勇社長のチーム愛も強かったが、グループ内では、赤字が累積する球団経営に反対する声も根強かった。

　チーム再建に向け、58年11月、巨人の二軍監督だった千葉を監督に招へい。現役時代は堅守巧打のセカンドで、攻守で闘志と職人的な技術を併せ持っていた。川上哲治と並び称され、ファンに愛された人気者である。

　同時に球団ニックネームのパールス(真珠。近鉄沿線の伊勢志摩地方で真珠の養殖が盛んだったこともあってついた)の変更を決め、一般公募。59年1月5日に締め切られたが、1位は1万8447票でバファローだった。

　ほかフェニックス、イーグルス、コンドルスなどが多くの票を集めたというが、ユニークだったのは、当時、皇太子明仁親王とのテニスコートの恋が話題となり、ミッチーブームを起こしていた正田美智子さんにちなんだミッチーズ。ただし、応募はがきには「近鉄は未来があるチーム。未来の『ミ』と千葉監督の『チ』から」とあった。ほか、モージューズ(猛獣ズ)、「いつも最下位だから」とテールスなどがあった。

　バファローは、千葉の現役時代の異名『猛牛』からで、千葉が出演したテレビで「バファローはどうだろう」と言ったこともあった。本来は複数形で「ズ」をつけるのだが、それでは呼びにくいのと、アルファベットだと9文字となり、ユニフォームにつける際、長過ぎると単数になったらしい。なお、略称は阪急ブレーブスの「B」があるので「BU」にしている。

　1月14日、上六映画劇場での球団名発表披露会では、片手をポケットに突っ込んだままの千葉監督が、「猛牛は止まることを知らず走り続けます。近鉄もジャイアンツと選手権を争うまで走り続けます。今までの近鉄はおとなし過ぎたと聞いています。しかし僕はエレガントではないので、近鉄をたくましいチームに育て上げるつもりです」と語った。

　今なお名意匠として人気の高い猛牛マークは、千葉と親友だった岡本太郎画伯がデザインした。2人の出会いが面白い。あるとき、銀座を2人が歩いていた。向こうから岡本、こちらから千葉。2メートルほどの距離になったとき、ほとんど同時に2人の口から「千葉さんか」「岡本さんか」の言葉が飛び出し、そのまま親友になったという。(続く)