開幕から鋭いスイング

　新井貴浩監督新監督の下、粘り強い戦いを繰り広げている広島。その旗頭となっているのが、打率.424とハイアベレージを残している35歳のベテラン・秋山翔吾だ。

　パドレス傘下の3Aエルパソを自由契約となり、広島に電撃入団したのが昨年6月末。8月7日の阪神戦(マツダ広島)で日米通算1500安打を達成したが、9月に発熱とコンディション不良で2週間以上戦列を離れるなど調整の難しさはあっただろう。44試合出場で打率.265、5本塁打、26打点。得点圏打率.400と勝負強さは健在だったが、秋山自身からすれば納得のできる数字ではなかった。

　今季は開幕18試合を終えてマルチ安打が8度、猛打賞が4度と得意の固め打ちが目立つ。4月11日の中日戦(バンテリン)では4安打をマーク。第1打席で左前打、第2打席で遊撃内野安打、第3打席で左前打、9回二死一、二塁の第5打席で右中間に2点適時三塁打と広角に安打を打ち分けた。

　他球団のスコアラーは、「昨年は途中入団で初めて経験するセ・リーグということもあり、手探りの部分もあったと思う。今年は開幕からスイングの鋭さが違う。安打を打つ技術は天才的。今は抑えるポイントが見つからない状況ですね。秋山の前に走者を出さないようにしないと」と脱帽する。

チームを勝利に導く印象深い一打

　印象に残る一打も多い。15日のヤクルト戦(マツダ広島)では1点差を追いかける9回二死一塁で、相手守護神・田口麗斗の初球スライダーを振り抜いた。打球は左翼席に消える逆転サヨナラ2ラン。西武時代の12年9月5日ソフトバンク戦以来11年ぶりのサヨナラ弾で喜びを爆発させ、お立ち台では、雨天の悪天候の中で応援してくれたファンやグラウンド整備をした関係者に感謝の言葉を口にした。「34歳をこれで締めくくったので、明日からまた新しい35歳という年を良い1年間にしたいと思います。応援よろしくお願いします」と誓うと、後ろでスタンバイしていた西川龍馬と坂倉将吾からウオーターシャワーを浴びせられた。

　そして、翌16日。35歳となる自身の誕生日となったヤクルト戦(同)は、西武時代にも行っていた「ひとり親家庭の親子」を招待した一戦だった。この試合でも猛打賞をマークし、5点差をひっくり返す逆転勝利に大きく貢献した。

　西武時代には最多安打のタイトルを4度獲得。2015年に日本記録のシーズン216安打をマークし、17年には首位打者を獲得した。外野の守備能力も高く、14年からNPB歴代2位の739試合連続フルイニング出場するなど、タフな選手だ。同学年の88年世代は坂本勇人(巨人)、田中将大(楽天)、前田健太(ツインズ)、柳田悠岐(ソフトバンク)らタレントぞろいだが、今年の秋山は一際強い光を放っている。

メジャー挑戦前に語っていた言葉

　20年2月。メジャーに挑戦するシーズン前、週刊ベースボールの1時間に及ぶ独占インタビューで、秋山は以下のように語っていた。

「夢は45歳まで現役でいることですけど、いまそのために苦しいことをやっている。まだ30ナンボなので、全然練習もできるし、ただ、本当にそこまでユニフォームを着ていようと思うなら、現状の取り組みでも足らないところはあるでしょう」

「小学6年のときに亡くなった父(肇さん)が『吾(われ)は翔(羽ばたく)』と世界に羽ばたくことも願って、『翔吾』と名付けてくれました。そもそも父が亡くなって、『自分がやるしかない』と強い自覚が芽生えて、プロになることができたのは間違いない。それ以前に野球を好きでいられたこととか、続けようと思わせてくれたことに関しては父の力は大きかった。そこには感謝しています。もちろん、亡くなったことには感謝していないですけど。でも、亡くなってから思いが強くなるのは、そうあることではないですよね」

　35歳になった現在も、ストイックに全力で駆け抜けるプレースタイルは変わらない。

写真＝BBM