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【高校野球】強いチームが勝つのではなく、勝ったチームが強い 横浜を撃破して野球の醍醐味を示した相洋

 

ゲームを動かす早めの決断が吉


相洋高は横浜高との神奈川春季大会準々決勝で勝利。試合後はガッツポーズを見せた


 2012年から母校を指揮する高橋伸明監督は新入生が入部する際、動機づけをする。何を目的に、相洋高校で野球をやるのか、と。

「自分たちよりも上のレベルのチームに勝ちたいというエネルギー。これに、尽きる。それが、最大のモチベーション。こういうゲームのためのために、やっているんだ!!」

 最高のステージで主役になった。相洋高は横浜高との春季神奈川県大会準々決勝(4月30日)を4対3で勝利。3対3のまま9回を終え、延長10回からのタイブレーク(無死一、二塁からの継続打順)を制した。侍ジャパンU-18代表候補に入った横浜高の左腕・杉山遙希(3年)を攻略したのである。

「よく頑張って、粘ってくれた」(高橋監督)

 相手は昨夏、秋の県王者。秋の関東大会8強で、今春のセンバツ補欠校だ。手に汗握る接戦を勝ち切った理由は何か。高橋監督が「先手必勝」のさい配を貫いたことにある。

「頑張っている選手には酷ですが、ウチと横浜さんでは、力の差がある。受け身、後手になっては……。先に、先に仕掛けました」

 積極的なスタンスは、投手起用にも出た。相洋高は3回表に2点先制。先発の右腕・大場智仁(2年)は3回2安打無失点の好投も、高橋監督は動く。4回から2番手の左腕・中島翔人(2年)につなぎ、2回1失点でしのぐ。相洋高は6回表に相手のバッテリーミスで3点目。6回裏からはエース右腕・大谷祇人(2年)を投入も、この回に追いつかれる。なおも、二死一、三塁のピンチが続いたが、勝ち越しを許さなかった。7回以降、大谷はバックの堅守(無失策)で、粘投を続けた。

 高橋監督には、一切の迷いがなかった。

「投手交代は勇気のいることですが、仮に早く代えても、長く引っ張っても、何かしら言われる……。人の意見を考えてもどうなるのか……。チームの皆が納得する形。状態が良い悪いは別にして、2巡目以降になれば、つかまえるだけの能力、戦術がある。それが、横浜高校さんです。選手に意見を求めることはありますが、決めさせるのは酷。対応される前に代えよう、という私の判断です」

 先発・大場と同様、2番手・中島も3イニングを予定していたが、傷口が広がる前にスイッチ。指揮官が選手を信頼し、ゲームを動かす早めの決断が、吉と出たのである。

一切なかった守りの姿勢


タイブレークとなった3対3の10回表、相洋高の主将・渡邊は横浜高の左腕・杉山の内角直球を「反応で」左二塁打。これが決勝点となった


 タイブレークとなった10回の攻防も相洋高らしさが出た。無死一、二塁。犠打で二、三塁とするのが定石も、打撃好調の二番・本多立幹(3年)は強攻策。結果は空振り三振も、三塁ベンチは前だけを見た。続く三番で主将・渡邊怜斗(3年)は横浜高の左腕・杉山から左二塁打を放ち、勝ち越しに成功した。

「1点を取るために、全員が1球に入り込んでいた。気負けすることはなかった」(渡邊)。高橋監督は「タイブレークでは、2点は欲しかった」と苦笑いを浮かべたが、渡邊は「1点あれば、自分たちの粘りがあれば、何とかなる。冷静にアウト一つひとつ。投手には腕を振っていくように言いました」と、1点をリードしても、守りの姿勢は一切なかった。

 10回裏。横浜高はセオリーどおり、犠打できた。打球は捕手の前に止まった。捕手・渡邊の三塁送球は難しいショートバウンドとなったが、三塁手・高麗勇輝(3年)がうまく捕球し、ボールを離さなかった。エース・大谷は後続2人を落ち着いて抑え、4対3で大金星を挙げたのである。渡邊は中学時代、オセアン横浜ヤングでプレー。横浜高の主将・緒方漣(3年)と元チームメートで「この2年半、ずっと負けたくないとやってきた」と、個人的にもキャプテン対決を制した達成感があった。

4対3で迎えた10回裏。無死一、二塁からのバントを捕手・渡邊が素早い送球で、二塁走者の三進を許さなかった


 高橋監督は試合後、興奮気味に言った。

「横浜高校さんに勝つのは、私が1年生(内野手)だった2000年春の県大会準々決勝以来なんです。当時は入学したばかりのスタンド応援組でしたが、目の当たりにしたあのインパクトは、忘れることはありません。こういう試合があるんだ、と。今も脳裏に残っています。神奈川で一生懸命、活動している学校はどこも、ここを乗り越えたいと思っている。ここを乗り越えるのは、大きなことなんです」

 相洋高は2016年秋の4回戦で、横浜高との延長15回引き分け(3対3)を経験している。4日後の再試合では4対7で敗退。高橋監督にとっても、一つの壁を突破したのだった。

 準決勝(5月5日)は東海大相模高と対戦する。23年前は準決勝で同校に敗退している。また、2020年夏の独自大会決勝でも5対9で惜敗した因縁の相手だ。主将・渡邊は言う。

「自分たちの前の試合を見ましたが、良い打撃陣(横浜創学館高に13対2で6回コールド勝利)がいる。そこで、先入観を持たず、気負けしなければ、絶対に良い結果が生まれる。守備でも粘って、粘って攻め続ける。2年生投手3人をリードし、誰よりも声を出し、誰よりも1球に入り込んでいきたい」

 強いチームが勝つのではなく、勝ったチームが強い。野球の醍醐味を、相洋高が示した。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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