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若鷹ファーム奮戦記

ホークスは今、ドミニカ共和国で一番有名な日本のチーム【若鷹ファーム奮戦記VOL.4】

 

福岡ソフトバンクホークスには今年54名の育成選手が在籍している(6月27日時点)。その中の6名は外国籍の選手。しかも、うち4名が年齢10代と非常に若いのが特徴である。世界中から有望な選手を集め強いチームを作りたいというコンセプトのもと、ホークスの新たなチャレンジが始まっている。

ホークスの土壌の上で若く有望な選手を育てていく


今季からの4軍制導入も見込んでホークスは昨年から育成外国人選手の数を一気に増やした[左からシモンアルメンタフェリックスヘラルディーノ※昨年撮影]


 2015年までのファーム本拠地・雁の巣球場時代も育成枠で外国人選手を獲得したことはあった。しかし、現在のような人数の規模ではなかったし、年齢も20代半ばがほとんどだった。2016年にファーム拠点を筑後に移してからは比較的若い外国人選手が加入するようになった。代表例が2017年。現在のチームでリリーフの柱となっているリバン・モイネロが当時21歳でキューバから来日したのがこの時だった。入団当初は「背番号143」の育成選手だった姿を覚えているファンはあまり多くないかもしれない。

 ソフトバンク球団の三笠杉彦GMは「従前より我々は世界中から有望な選手を集めて、強いチームを作りたいというコンセプトのもとでやっています」とし、「ホークスの土壌の上で若く有望な選手を育てていくという中で、新たなチャレンジをしております」と言葉を継いでいる。

 その新たなチャレンジというのが、昨年から始まっている。今季からの4軍制導入も見込んで、2022年シーズンより育成外国人選手の数を一気に増やした。投手ではメキシコ出身左腕のアレクサンダー・アルメンタ(入団当時17歳)、ともにドミニカ共和国出身右腕のマイロン・フェリックス(同22歳)とルイス・ロドリゲス(同20歳/シーズン途中加入)。内野手のフランケリー・ヘラルディーノ(同17歳)と外野手のマルコ・シモン(同17歳)もドミニカ共和国からやってきた。アルメンタ、ヘラルディーノ、シモンは契約が決まった時点では、日本でいえば「高校2年生」に相当した。昨年のシーズン中が「高3世代」となり、現在は大学1年生に相当する年代である。

外国人選手たちがより快適に生活できるように球団がサポート


「素晴らしい施設と環境で野球ができるホークスに来た自分の判断は本当に正しかった」と語るシモン


 この中の1人、シモンに話を聞いた。彼はドミニカ共和国の野球アカデミーに、ヘラルディーノとともに在籍し、有望選手として注目を集めていたという。「メジャーの球団からもいくつかオファーがありましたが、アカデミーの方からは日本行きを勧められました。日本は練習量も多く、細かなところまで指導があります。そういった環境でやる方が効率よくレベルアップできると考えました」。
 
今季で来日2シーズン目を迎え、入団当初に比べれば体つきがかなり逞しくなった。体重は7キロほど増えたという。さらに表情やしぐさが大人びて見え、精神面での成長も感じさせる。「最初は練習についていくのに精一杯でしたが体力がついてきたし、3軍や4軍で試合を重ねる中で自信もついてきました。自分はプロなんだという意識も持つようになりました」

 生活拠点は球団寮。同年代の中南米出身選手が一緒にいるおかげで寂しくはないという。また、球団は一社会人として成長してもらうために、日本人の新人選手に行う講習(トレーニング学や栄養講習をはじめ、社会人としての一般教育など)も定期的に行い、さらにはオンラインによる日本語授業の機会も設けている。そのおかげもあり、シモンは「小林珠維や、同じ外野手の早真之介舟越秀虎笹川吉康と遠征先では食事に出かけたりします」と、チームメイトたちとも積極的に交流を図っている。これは互いにとって大いにプラスになるはずだ。

 さらに球団は、外国人選手たちがより快適に生活できるサポートとして、食事面にも気を配る。若鷹寮では中南米の家庭料理を月に1,2度は提供できる機会を設け、中南米で好まれるタロイモや調理用バナナは常備してあり、気軽に食べられる準備がされている。シモンは言う。「ホークスに来た自分の判断は本当に正しかったと思います。このような素晴らしい施設と環境で野球ができる。オフには母国に帰りましたが、アカデミーの後輩たちも『日本に行きたい』と言っていました。ホークスは今、ドミニカ共和国で一番有名な日本のチームになっています」

 将来の夢はアクーニャJr.(ブレーブス)やフリオ・ロドリゲス(マリナーズ)のようなプレーヤーになることだと目を輝かせた。そして、ソフトバンクは2023年シーズンよりもう1人、ドミニカ共和国から右打ち外野手のホセ・オスーナを獲得した。1月の来日時点で15歳という驚きの若さで、3月末の誕生日で16歳になった。現在は「高校2年生」世代である。彼はやはりシモンと同じアカデミーに所属していた。「日本のプロ野球は育成システムがすごくいいと思いました。自分が成長する機会がある。より良い選手になれると思ったからです。また、ヘラルディーノ選手やシモン選手からも日本やホークスの環境の話などを聞いていました」。メジャーで20年シーズンに本塁打と打点の二冠王に輝いたマルセル・オズナ(ブレーブス)をいとこに持ち、「将来は日本のプロ野球記録を塗り替えたい」と意気込んでいる。

 三笠GMは「理想は外国人枠の中で1、2枠を、育成出身の選手が占めて活躍してくれること」と語っている。野手はどうしても成長に時間がかかるが、投手ではフェリックスが来日後すでに160キロ台の直球をマークしたり、アルメンタが「第2のモイネロ」をほうふつとさせる150キロ台の速球と落差の大きなカーブで相手打者をきりきり舞いにしたりする場面が見られている。中長期的な視点で見守る必要はあるものの、蒔いた種はホークスの育成土壌の中で着実に成長している。

文&写真=田尻耕太郎
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