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若鷹ファーム奮戦記

育成3位ルーキー木村光が2ケタ番号に変わり新しいスタートを切る【若鷹ファーム奮戦記VOL.6】

 

今年から導入の4軍制に伴い、ソフトバンクは史上最大規模の「育成54名」で今季をスタートさせた。その中から支配下登録を勝ちとった、新たな“育成の星”はルーキーの木村光だった。身長173cmとプロ野球選手の中では小柄な右腕はこの数か月間でメキメキと力をつけた。何が彼をここまで成長させたのか。単独インタビューでその背景を紐解く。

ホークスのおかげで自分の持ち味を伸ばすことができた


「監督やコーチからは『自分の持っているもの、長所をアピールしてほしい』と最初に言われました」と言う


 今季登録期限まで2週間と迫る頃、球団の「若鷹寮」の自室で体を休めていた木村光はスマホの着信に気づいた。球団スタッフから「ちょっと来てほしい」と呼ばれたのだ。用件は言われなかった。「用事? 何かやったかな……?」。そわそわしながら訪ねると、そこでようやく支配下登録の事実を告げられたのだった。

 7月17日にはPayPayドームを訪れ、新たな契約書にサインをし記者会見にも臨んだ。

「率直にうれしかったですし、小久保(裕紀)2軍監督には電話で『ここからがスタートだぞ』と言われました。その通りだと思います」

 育成ドラフト3位で佛教大学から入団。持ち味は安定感と、全球種を“ピッチトンネル”できるところ。つまり、複数の球種を近い軌道から変化させることで打者の見極めを困難にするという技術だ。

「ホークスに入って最初に監督やコーチに言われたのが『自分の持っているもの、長所をアピールしてほしい』ということでした。その中で、もちろんチーム全体の練習やテーマなどがありますが、ホークスは自主練の時間も多く、やりたい練習とかやらなくちゃいけない練習を自分で考えて見つけ出すという方法がとられています。そのおかげで自分の持ち味を伸ばすことができたし、逆に課題もはっきりしました。見つかった課題はコーチにも伝えて、それに対して話し合い、アドバイスももらいながら向き合っていく。そのような取り組みを経たおかげで、自分の長所を伸ばしつつ、一方ではパフォーマンスも安定するという効果があったと思います」

球速も伸び、体重も増えた


寮の食事やトレーニング施設など野球に向き合える環境により体が大きく変わった


 また、球速も伸びた。大学時代は148キロだったのが、プロ入り後の数か月で150キロの大台に乗せた。「ホークスに入って、まず体が大きく変わりました。入団したての今年1月は体重68kgでしたが、今は74kgに。筑後の寮の食事とトレーニング環境のおかげです」。球団の若鷹寮の食事には舌も胃袋も大満足。これは木村光に限らず、他の選手たちからもよく聞いている。なかには1日3食以外の“補食”を必要とする選手もいるため、食堂にはおかずや白米、パンが常備されている。サプリメントやプロテインなどの栄養補助食品も当然置かれている。また、球団では月に1度、筋肉量や脂肪量などを高精度でチェックできる機器を用いて選手の体調管理などを行っているが、その機械はいつでも使えるようになっており自主的に測定している選手もいるようだ。

「大学時代からホークスの環境、施設が整っているのは知っていました。育成ドラフト指名だとしても、野球と向き合える環境だし育成入団だとすれば一番行きたいと思っていたのはホークスでした。また、ホークスは育成出身で1軍で活躍されている先輩方もたくさんいます。投手では石川柊太さんや大関友久さん、メジャーに行った千賀滉大さん、野手でも甲斐拓也さんや牧原大成さんに周東佑京さん。次々と名前が出てきます。だから育成入団でも必ずチャンスはあると感じていました」

ホークスのエースになりたい


7月17日、球団から支配下選手登録が発表され、背番号が「160」から「68」に変わり新しいスタートを切った


 その中で木村光は1つの信念を大事にしたという。

「育成で入ると『支配下登録されること』を目標に挙げがちですが、僕はあくまで『1軍で活躍するために』を常に意識していました。なので、支配下と育成は違うと言われる方もいますし実際そうかもしれませんが、僕は敢えて『同じだ』と考えるようにしていました」

 その目標設定のおかげで高いモチベーションを最初から持ち続けることができたという。2月の春季キャンプでも育成新人の中で唯一、宮崎で過ごしてアピールに成功。3、4軍などの非公式戦ではなく2軍公式戦のウエスタン・リーグで登板を重ねた。

「小久保2軍監督にも本当に感謝をしています。自分がしんどいとき、7月末の登録期限が迫った佳境の時期には直接声をかけてくれて、モチベーションを上げてくれました」

 小久保2軍監督はほかの育成選手たちにも同じようにハッパをかけていた。「みんな自分の立場を分かって、そして競争していました」と木村光は言う。背番号は160から68に変わった。

「やるからには、ホークスのエースになりたい。チームで一番頼られる存在になりたい。誰にも負けないくらいの努力をして、結果を残していきたいです」

 自分の頑張り次第でチャンスがある、その環境がホークスにはある。木村光は自分に言い聞かせるように、改めてそう口にした。

文=田尻耕太郎 写真=田尻耕太郎、福岡ソフトバンクホークス、BBM
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