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『侍ジャパン戦士の青春ストーリー 僕たちの高校野球3』ちょい出し連載

中日・高橋宏斗(中京大中京高)の知られざる高校時代「新型コロナに翻ろうされた世代のリアル」/『侍ジャパン戦士の青春ストーリー 僕たちの高校野球3』ちょい出し連載06

 

名門校での日々と消えた甲子園


『侍ジャパン戦士の青春ストーリー 僕たちの高校野球3』


 現役プロ野球選手たちの高校時代の軌跡を辿る『僕たちの高校野球』。待望のシリーズ第3弾となる『侍ジャパン戦士の青春ストーリー 僕たちの高校野球3』がベースボール・マガジン社から発売になった。ここでは掲載された7選手の秘蔵エピソードの一部を抜粋し、全7回にわたって紹介していく。第6回は中日高橋宏斗の高校時代にスポットを当てる。

やんちゃな次男坊


 1923年の学校創立と同時に創部した中京大中京高野球部は、1966年には甲子園で春夏連覇を果たし、春4度、夏7度と全国最多となる11回の優勝を誇る。近年では97年春のセンバツで準優勝し、2009年夏には43年ぶりに優勝に輝いた。甲子園での勝利数も全国最多という超名門校だ。そんな同校の練習は、中学を卒業したばかりの高橋宏斗には予想以上にハードなものだった。

「それまでは土、日だけの練習で、毎日ということはなかったので、まず最初に毎日練習するということ自体が体力的にきつかったです。それと当然ですが、僕ら1年生と3年生とでは体力的にも技術的にもかなりのレベルの差があって、こんなすごいところでやっていけるのかなという気持ちもありました」

 野球部のグラウンドは学校の敷地内にあり、周囲は住宅に囲まれている。そのため、夜遅くまで練習することはできず、放課後は7時ごろには終了となる。その分、早朝に練習時間を割くようにし、毎朝7時に練習が行われる。

 学校まで電車で約1時間半ほどのところにある自宅から通っていた高橋は、その朝練に間に合うように毎朝4時45分に起床し、5時半の電車に乗った。割と朝には強い方だという高橋にとって起床すること自体は難なくできたというが、それでも体の疲れが取れないままの電車通学はやはり大変だった。

 高校3年間指導した高橋源一郎監督が、高橋を初めて見たのは彼が中学2年の時だった。実は高橋監督が高橋を知るきっかけとなったのは、兄の怜介さんだったという。

「お兄さんが豊田シニアでプレーしていた時に、何度か練習や試合を見に行ったことがありました。そのお兄さんがエースだった豊田シニアは日本一にもなったんです。学力もある選手でしたので、文武両道としているわが校にも合うし、ぜひ一緒に野球をやりたいと思っていたのですが、結局、関東の方の高校に進学されたので、残念ながら縁がありませんでした。

 彼には5つ下に弟さんがいるということは知っていましたので、どんな選手だろうという関心はずっと持っていました。実際にプレーを見たのは宏斗が中学2年生の時だったと思います。チームの監督さんからも「兄とは正反対」という風に聞いていましたが、練習熱心で投げている姿からも落ち着きがあってクレバーな感じのお兄さんとは違い、宏斗はまさに「やんちゃな次男坊」という感じでした。

 ただ、やっぱり血筋と言いますか、持っているものはいいものがあるなというのは感じていました。とにかく器用だったんです。内野もショートをやっていましたし、ピッチャーとして投げてもコントロールも良かった。体の線はまだ細かったですが、これからもっと成長するだろうなというところもありましたので、非常に伸びしろを感じる選手でした」

交流試合で有終の美


甲子園高校野球交流試合で熱投を見せる高橋宏斗


 その後、順調に成長を遂げた高橋はチームのエースに。だが、高校野球生活の最後に予想もしなかった事態が起きた。新型コロナウイルス感染症の拡大。2020年3月11日、すでに出場が決まっていたセンバツは開幕直前にして中止。さらに夏も中止が決定した。

 高橋自身、大きな目標がなくなり、最初はどこに向かって何をすればいいのかわからなくなっていた。だが、そんな中で前を向く力となったのは、甲子園高校野球交流試合の開催決定の知らせと、監督の言葉だったという。

「監督から、せっかくここまで頑張ってきたのに、このまま終わるのはもったいないんじゃないかというようなことを言っていただいた時に、本当にそうだなと思いました。目指していた全国制覇はできなくなったけど、まずは愛知県の独自大会で優勝して、甲子園での試合で勝って終わろうと。そこでチームがまた同じ方向に向けたように思います」

 2020年8月12日、智弁学園高戦。勝っても負けても、高校野球最後の試合。「球場がすごく広く感じましたし、これが甲子園なんだと実感が湧きました。観客はいませんでしたが、家族やベンチに入れなかったチームメートが応援しながら見てくれていたので、エースとしての責任をしっかりと果たそうと思ってマウンドに上がりました」

 チームは劇的なサヨナラ勝利。高橋も149球を投げ抜き、5安打3失点の完投で有終の美を飾った。

 最後は想定外のことばかりが続いたが、高校3年間を高橋はこんな言葉で締めくくっている。

「最後の試合のあとは、感謝の気持ちが一番にありました。本当にチーム一丸で勝った試合でしたから。野球の技術もレベルアップしたという実感がありますし、一人の人間としてもちゃらんぽらんな性格だった中学の時からは、ずいぶんと成長できたんじゃないかと思います」

 明日は「戸郷翔征」編です。
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